
笠松競馬場を訪れ、ウイニーと触れ合う園児たち
笠松競馬場の魅力の一つは、競走馬とファンとの距離が近いこと。誘導馬として長年活躍してきた3頭。12年前に30歳で天国へと旅立ったハクリュウボーイ(パクじぃ)。後継馬のエクスペルテ(ペ君)とウイニー。そして誘導馬騎手の塚本幸典さんは本年度末のマーチカップシリーズ(19~21日、24日)を最後に引退する。長年、出走馬たちを落ち着かせてパドックや本馬場に誘導してきたが、来場するファンたちに別れを告げる。
ペ君とウイニーは塚本さんと共にファンに愛され続けてきた。コロナ渦前のレース開催日には園児らとも交流し、競馬場を和やかにするアイドルホースにもなった。パクじぃは国際文化交流やホースセラピーなど来場者との触れ合いでも人気を集め、声援を受けた。殺風景な笠松競馬場では「白い天使」のような存在。ファンらと交流した懐かしい日々を岐阜新聞の記事で振り返った。
■園児らウイニーと交流「いつか乗ってみたい」(2017年6月)
「あっ、お馬さんだ~」。レースの合間に駆け寄る子どもたちの前で、誘導馬がいつも立ち止まって、記念撮影に収まる姿はほほ笑ましいものだ。いつも優しい表情で寄り添った園児らとの交流は心温まるシーンとなった。
岐阜市の沖ノ橋認定こども園の年長児らは、毎年5月ごろに笠松競馬場を訪れており、誘導馬と触れ合った。動物に親しみ、豊かな感性を育もうと競馬場を訪問しており、ウイニーと対面した。
園児らは馬の大きさに驚きながらも柵越しに顔を恐る恐るなでて、毛並みの触り心地を確かめた。「触ってみると温かかった。いつか乗ってみたい」と笑顔を見せた。レースも観戦し、場内のオグリキャップの銅像前で記念撮影も楽しんだ。

誘導馬と触れ合い。エクスペルテをなでる園児たち
■ペ君の毛並み「さらさら」レース観戦「頑張れー」(2014、15年5月)
エクスペルテも岐阜市の園児たちの訪問を何度も受け、触れ合った。誘導馬が自分たちに向かって近づいてくると、園児たちは「馬が来た」と大はしゃぎ。緊張してなかなか触れなかった園児もいたが、保育士らに勧められて柵越しに顔を優しくなでて「さらさらだ」と毛並みの感触に驚いていた。
レース観戦では「お馬さん、頑張れー」と目の前を疾走する競走馬に大きな声援を送り、そのスピードや迫力に目を輝かせていた。園児は「速くてかっこよかった」「ふわふわしていてかわいかった」と笑顔を見せ、楽しそうだった。
■パクじぃの迫力に歓声、親子で餌やり、記念撮影(2007年11月)
笠松町内の幼児と保護者が笠松競馬場を訪れ、誘導馬と触れ合ったり、走路を歩いたりして楽しんだ。町児童館が未就園児の親子の交流の場「ピヨピヨひろば」の行事の一環として初めて企画した。
地域の動物に親しみ、優しい心を育んでもらうのが狙いで、1~3歳児と母親の20組が来場。ハクリュウボーイ(パクじぃ)が登場すると「大きい!」と歓声を上げ、恐る恐るニンジンをやったり、顔をなでて親しんだ。親子で背にまたがって記念撮影し、砂を敷き詰めた走路の歩き心地も体感した。
初めて訪れたお母さんは長男と一緒に乗り「高さに驚いた。子どもが馬に触れるチャンスはなかなかなく、身近に感じられたと思う」と喜んでいた。

女性がプレゼントしたニンジンをハクリュウボーイに食べさせる広江正明笠松町長
■「おいしい敢闘賞」ニンジン1.5トン分、オグリファンの女性が寄付(2009年6月)
「笠松競馬で頑張る競走馬たちにニンジンの敢闘賞を」と、地元・笠松町在住の81歳女性が笠松競馬管理者の広江正明町長にニンジン1.5トン分の購入費として15万円を寄付した。
女性が馬に魅せられたのは、笠松競馬のヒーロー、オグリキャップを見てから。1990年のGⅠ・ジャパンカップ敗戦から有馬記念に復活優勝を果たした姿を見て〝とりこ〟に。年金をコツコツ貯金し、誘導馬への寄付となった。
女性は町長室で広江町長から感謝状を受けた後、オグリキャップと同じレースで走ったこともある国内最年長誘導馬のハクリュウボーイと最年少誘導馬エクスペルテが待つ厩舎へ。各務原特産のニンジンを2頭に「これからも頑張って」と声を掛けながら与えた。
「馬は誠実で純粋。前脚を振ってニンジンをねだる姿が見られてうれしい」と満面の笑み。ニンジンは2回に分けて、笠松競馬場の競走馬約400頭に贈られた。

白いトナカイ? 角飾りを着けてクリスマスムードを演出するエクスペルテ
■笠松競馬にトナカイ? ぺ君が角飾りでⅩマス演出(2008年11月)
誘導馬がトナカイに? 笠松競馬のエクスペルテの頭に角飾りが着けられ、クリスマスムードを演出している。
誘導馬騎手の塚本幸典さんが子どもや女性らに喜んでもらおうと、2頭いる芦毛の誘導馬に、角の着いたカチューシャをかぶらせた。塚本さんは「写真を撮る方も多い。ファンが増え、競馬場に足を運んでいただければ」と集客にも一役。
「トナカイ誘導馬」は11月末と12月の競馬開催日に登場。年末年始は獅子頭に着け替えて新春気分を盛り上げるという。

笠松競馬場を訪れ、誘導馬にニンジンを与える研修生ら
■乗馬体験「楽しいネ」外国人研修生とも交流(2009年4月)
国際文化交流活動などを行っている一般社団法人「みらい」(岐南町)に招かれた外国人研修生らが笠松競馬場を訪れ、乗馬体験を楽しんだ。
「みらい」は海外からの留学生らを対象に農業体験や日本語教室を実施。地域の文化を知ってもらおうと、岐阜県地方競馬組合の協力で岐南町に住む中国人やタイ人ら11人を招いた。
研修生らはハクリュウボーイにニンジンを与えたり、木曽馬に乗る体験を楽しんだ。タイ人の参加者は「乗馬は初めての体験で、とてもうれしい」と喜んでいた。
■現役最高齢「パクじぃ」集客に一役 、オグリと対戦経験も(2008年12月)
「パクじぃ」という誘導馬として「生涯現役」を貫いた師匠がいたからこそ、ぺ君もウイニーも立派な誘導馬へと成長した。

笠松競馬場に里帰りしたが、暑さのせいか足取りが重いオグリキャップ(左)と再会。ゴール前まで誘導するハクリュウボーイ
経営難が続く地方競馬の笠松競馬場で、現役最高齢の誘導馬が集客に一役買っている。塚本幸典さんが日々の様子をネットなどで紹介し人気が急上昇。お目当ての来場者が増えている。
誘導馬は出走前の競走馬をパドックまで誘導し、落ち着かせる役割がある。全国に100頭以上いる中で、最高齢が「パクじぃ」の愛称で親しまれる元競走馬ハクリュウボーイ。笠松競馬場で活躍し、名馬オグリキャップと対戦したこともあった(果敢に逃げて5着)。7歳で脚にけがをして誘導馬に。レース日には炎天下や寒さの中でも1日10キロ以上歩く。パクじぃは2005年4月、笠松競馬場の再興のため「救世主」として里帰りしたオグリキャップとも再会し、ゴール前まで誘導した。
当初は「わんぱくで、使いものにならなかった」と日々の世話もする塚本さん。パクじぃが現役最高齢と知り、笠松競馬場のマスコットにすることを思い付いた。ファンを乗せるふれあい会を開催し、ホームページにファンの交流の場をつくった。
誘導の際にはサンタの帽子をつけるなどシーズンごとの楽しさを演出。ネット上にも書き込みが増え、全国のファンがパクじぃの手作り人形などを送ってくれるように。時には馬券売り場にも登場し、ファンは写真を撮ったり、たてがみをなでたり。塚本さんは「交流がきっかけで、競馬を好きになってもらえれば」と話していた。

ハクリュウボーイに騎乗し、入場門前でファンを出迎える競馬ファンの女性
■誘導馬騎乗の夢実現、入場門前でファンをお出迎え(2006年8月)
誘導馬がファンをお出迎え。笠松競馬場で開門直後から1時間、パドックまで競走馬を先導する誘導馬が入場門前に登場。お盆休みで詰め掛けた大勢のファンを驚かせた。ハクリュウボーイに騎乗したのは、競馬場近くの乗馬スクール生徒の岩田薫さん=一宮市=。誘導馬に乗りたいという希望を競馬場関係者がかなえた。
大の競馬ファンで、誘導馬に騎乗する塚本幸典さんに、知人の厩務員を通じて相談。塚本さんは競走馬への影響を考え「パドックへの先導は難しいが、客を入り口で出迎える形なら」と快諾した。
誘導馬の騎手が着る特別レース用の赤いジャケットに身を包み、ファンらのお出迎えに臨んだ岩田さん。馬を落ち着かせ、駆け寄ってきた子どもたちを乗せるなどし、堂々の手綱さばきぶりを披露。付き添った塚本さんも「馬が好きな彼女なので、ある程度は任せておける。騎乗したいという人がほかにも出てくれば、笠松競馬の活性化策にもなる」。岩田さんは「緊張感で暑さが分からなかったほど。でも楽しかった」と感激していた。

「白馬に乗った王子様」が笠松競馬場で結婚式。エクスペルテにまたがって登場した山﨑真輝元騎手
■笠松競馬元騎手、エクスペルテにまたがって結婚式(2015年9月)
笠松競馬場で10年ぶりとなる結婚式が開かれた。式を挙げたのは、元騎手の山﨑真輝さんと妻の山中祐季さん。親族や観客ら約400人が詰めかけ、2人の門出を祝福した。
現役時代、笠松競馬に所属した山﨑さんの希望に、競馬場側が応えた。山﨑さんは誘導馬のエクスペルテにまたがって登場し、山中さんは美濃和紙でできたドレスを身にまとった。
「馬が合うときもそうでないときも、共に生きることを誓います」。2人は力強く誓いの言葉を述べ、手を取り合ってバージンロードを進んだ。山中さんには記念品のムチも手渡された。参列者は「これで2人はウマくいく」などと祝福していた。

舌を出しちゃめっ気たっぷりのハクリュウボーイと、感謝状を手にする塚本幸典さん
■全国最高齢誘導馬 「パクじぃ」にNAR感謝状、業務馬で初めて(2010年2、3月)
ファンと触れ合い20年、業務馬では初めての栄誉。笠松競馬場でレース前の競走馬を先導する全国最高齢27歳の誘導馬ハクリュウボーイが、地方競馬全国協会(NAR)に長年の働きと競馬振興への貢献が評価され、感謝状を贈られた。
年ごとの成績優秀馬を表彰するNARグランプリ会場(東京)で授与された。同じ会場で笠松所属のラブミーチャンが2歳馬初の年度代表馬に輝き、地元関係者らは二重の喜びに沸いている。
ハクリュウボーイは2歳で笠松へ。対戦した馬の中には名馬オグリキャップもおり、50戦12勝、2着8回の好成績で競走馬を引退。1990年から誘導馬を務めてきた。「パクじぃ」の愛称で親しまれ、サラブレッドの平均寿命がおよそ25歳といわれる中、本場開催日は誘導業務だけでなく、入場門での出迎えやレース終了後のファンとの交流など大車輪の活躍だ。
NARは「人との触れ合いに貢献をしている業務馬に感謝状を贈るのは初めて」という。第1回グランプリでオグリキャップが特別表彰されており、20回目を迎え、同じ笠松で対戦経験のあるハクリュウボーイへの感謝状授与も粋な計らい。
「家族」として20年間世話してきた乗り手の塚本幸典さんは「ファンのおかげ。パク自身、人との交流が生きがいになっているのかも。これを機に、さらに一日一日の触れ合いを大切にしたい」と喜びもひとしお。塚本さんは全国最年少の誘導馬エクスペルテも世話しており「老若ダブルでいるのも笠松ならでは」と声を弾ませた。
経営が低迷する笠松競馬場に、ラブミーチャンとハクリュウボーイの2頭の光明が差し込んだ。広江正明笠松町長も「2頭に励ましてもらっている。われわれ関係者も頑張らないと」と奮起していた。
NAR感謝状の表彰を記念して、3月には全国のファンが協賛レースも開催。「パクじぃ 僕も頑張るよ」「現役四半世紀記念」など1日に七つもの冠レースが行われた。感謝状と誕生日を祝福するセレモニーでは、ファンからパクじぃにニンジンが贈られ、交流を深めた。

パクじぃと触れ合う目の不自由な方ら。ホースセラピーで癒やし効果も期待された
■目の不自由な方たちと触れ合い、30歳まで長生き(2013年6月)
1985年にデビューし、競走馬、誘導馬として28年間も笠松競馬場一筋に「生涯現役」を貫いたパクじぃは30歳まで長生きし、2013年6月1日に老衰のため、天国へと旅立った。
岐阜市の視覚障害者福祉協議会のメンバーが笠松競馬場を訪れたことがあった。参加した目の不自由な方たちは、パクじぃをなでたりして触れ合いを楽しみ、「毛並みがふわふわしていて、とても元気そう」と喜んでいた。笠松競馬では、引退した競走馬たちを医療分野で活用する「ホースセラピー」の実施に向けた取り組みも進められている。癒やし効果も期待され、競馬場の新たな活用法として注目される。
競走馬、誘導馬として約28年間、笠松競馬の振興に尽くしてきたパクじぃ。その最期は、笠松の若い誘導馬2頭にも見守られて、安らかな顔だったという。「パクじぃさよならレース」が開催され、献花台も設置された。記帳ノートには「大好きでした。笠松競馬をずっと見守っていてください」などと、全国から来場したファンのメッセージが寄せられた。
笠松競馬に貢献したパクじぃの遺志は、エクスペルテ、ウイニーの誘導馬2頭に引き継がれた。

笠松競馬3月開催で引退するエクスペルテ(左)、ウイニーと塚本幸典さん
■入場無料化、観客増へ「魅力向上を図る」
ここからは笠松競馬の魅力アップ策について。江崎禎英岐阜県知事は笠松競馬場の活性化策として、2025年度中に入場料を無料化する方針を明らかにした(県議会一般質問での答弁)。インターネットでの馬券販売が好調な一方、会場を訪れる観客の減少が続く中で、気軽に足を運んでもらえる環境を整えるとし「馬券販売が好調でも気を緩めることなく、魅力向上を図る」と述べた。
来場者の利便性向上へ、場内のキャッシュレス化も進めるとした。レースの魅力を高めるため、全国から強い馬を呼び、賞金の増額を目指すとした。現在進めている厩舎移転に加え、新たに観客席の再整備にも取り組んでいくという。
■馬と直接触れ合う校外学習やホースセラピーの場として活用へ
また競馬場内で小学生が馬と直接触れ合う校外学習を推進する。人と馬が触れ合うことで癒やしを提供するホースセラピーなどの場としても笠松競馬場を活用していくという。
これって、パクじぃやぺ君、ウイニーの誘導馬3頭がファンサービスの一環として、これまでやってきたことでもある。やはり、この仕事はよく訓練されて、おとなしくて人に優しい白い誘導馬が適任だろうが、引退してしまっては、笠松競馬場ではそういった活躍の場もなくなるのか。高齢化社会で、人間なら退職しても再雇用という形で仕事を続けられる職場も増えてきたが…。パクじぃのように「生涯現役」を目指す、ぺ君やウイニーの次のステージでの活躍を願うばかりである。

3月19日~24日に誘導馬カレンダー写真展が開かれ、ウイニーと園児らが交流する姿も展示される
■「ふれあい撮影会」、写真展、メッセージボードも
ペ君とウイニーは次開催(3月19~21日、24日)残り2日ずつの出番で塚本さんと「完歩」のゴールインを迎える。ファンたちとのお別れの場として、21日(ペ君)と24日(ウイニー)の最終レース終了後には、ウイナーズサークルでそれぞれの「ふれあい撮影会」が開かれる。
期間中(19日~24日の6日間、JRA開催日も)には、オグリキャップ像近くで「誘導馬引退記念パネル展示」も開かれる。2018年から4年間、誘導馬たちのカレンダーを制作してきた「ホース・ファクトリー」が作品を展示する。出品には「オグリの里」も協力。NAR感謝状を受けたパクじぃ、園児らとの交流でも活躍したぺ君&ウイニー、たった一人で誘導馬の世話をしてきた塚本さんの功績をたたえる。
広々とした競馬場で、のんびりと競馬観戦をライブで楽しむなら「馬と人との距離がメチャ近い」が売りの笠松競馬場へどうぞ。ぺ君とウイニーの馬道からパドック、コースへの誘導は、あと2日間ずつで見納めになる。ぜひ笠松競馬場に足を運んで、最後となる雄姿を撮影したり、写真展のメッセージボードに感謝の思いを刻んでいただきたい。
☆ファンの声を募集
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
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