
東海ダービー挑戦か、中央移籍か、オグリキャップのあしたはどっちだ。
宿敵マーチトウショウにクビ差連敗後、キャップはリベンジを果たし3連勝。世代トップの走りに鷲見昌勇元調教師も「今度こそ東海ダービーはもらった」と手応えを感じていたが、水面下では中央へのトレード話も進められていた。
■8戦目 中京盃(1987年10月14日・中京)
ハナ差勝ちから連闘で芝にチャレンジ
オグリキャップの笠松時代、中京・名古屋遠征時の専門紙出馬表は残念ながら入手していなかった。中京盃は中京競馬場での芝1200メートル戦。当時は中京開催で東海公営のレースも行われていたのだ。笠松ダートで秋風ジュニアに続いて重賞ジュニアクラウンを制覇。連勝街道を走るキャップにとって初めての芝レースで、その適性が注目される一戦となった。

12頭立て、笠松から3頭、名古屋から9頭が参戦。笠松・ジュニアクラウンと並んで、東海ダービー馬を目指す精鋭たちが集結した。キャップは単勝1.5倍で断トツ人気。前走ジュニアクラウンでは早めに先頭に立ち過ぎてマーチに一度は追い抜かれ、最後は差し返して勝ったがハナ差の大接戦。苦い経験を味わったキャップが、中9日のほぼ連闘でのチャレンジになったが、素晴らしい走りを見せた。この経験は、中央でのマイルCS→ジャパンカップにも生かされた。「ハナ差」「連闘」は成長のキーワードとなり、キャップを強くたくましくしていった。

■完勝、芝コースへの高い適性を示した
中京盃のレースは、名古屋のピンクコマンドが逃げて、キャップは6番手インを追走。3コーナーを過ぎて進路を外へ。9年連続笠松リーディングで当時27歳だったアンカツさんが好騎乗。4コーナーを回って直線半ばで気合を入れてゴーサインを出すと一気に突き抜けた。最後は持ったままで後ろから来る馬がいるかどうか確かめながらで、名古屋・アーデントラブに2馬身差をつけて楽々ゴールイン。
地をはうようなフットワークは軽快で、芝コースへの高い適性を示した。1200メートル1分10秒8は、中央の古馬1勝クラスと同等に走れるタイム。このレース内容から、キャップにほれ込んだ中央の馬主からも熱い視線を浴びることになった。笠松のキャップから中央のキャップへと旅立つターニングポイントとなった一戦だった。
3着にシービーキグナス(浜口楠彦騎手)、4着にヤマニンテンザン(井上孝彦騎手)が入り、笠松勢3頭が掲示板を確保し能力の高さを示した。
■中京盃(中京、芝1200メートル)のレース結果(3歳は現2歳)
馬番 馬名 性年齢 重量 騎手 厩舎 タイム 人気
3 オグリキャップ 牡3 54 安藤(勝)鷲見 1.10.8 ①
2 アーデントラブ 牝3 53 田中 竹口 1.11.2 ②
6 シービーキグナス 牡3 54 浜口 村松(友)1.11.4 ⑥
8 ヤマニンテンザン 牡3 54 井上 伏見 1.11.9 ⑦
9 セイジボーイ 牡3 54 吉村 立松 1.12.2 ⑧
4 ピンクコマンド 牝3 53 迫田 永田 1.12.2 ③
1 ドクターシャルマン牝3 53 酒井(章)本村(光)1.12.5 ⑩
12 ニューヒサマル 牡3 54 山之内 岩田(幸)1.12.6 ⑫
10 アイテイマリー 牝3 53 酒井(作)山中 1.12.7 ⑨
7 トヨノシンボル 牡3 54 村瀬 岩田(克)1.13.1 ⑪
11 グランドキャニオン牡3 54 榎本 竹下 1.13.1 ⑤
5 アイガーフット 牡3 54 児島 大薮 1.13.1 ④

■9戦目 中日スポーツ杯(1987年11月4日・名古屋)
東海では無敵の強さ、重賞3連勝
続くキャップの遠征先は東海ダービーが行われる名古屋競馬場。中日スポーツ杯に笠松、名古屋から6頭ずつ参戦し、12頭立てダート1400メートル戦。前日には東海菊花賞で笠松のワカオライデン(牡6歳、荒川友司厩舎)が2着に8馬身差で圧勝していた。キャップの単勝オッズはさらに下がり1.2倍に。笠松で死闘を繰り広げたマーチトウショウも参戦。キャップが3勝2敗と勝ち越してはいるが、マーチも2番人気で打倒キャップへと燃えていた。

■アンカツさんのゴーサインにスイッチオン、余裕のゴール
キャップは5番手を追走し、残り400メートルからアンカツさんのゴーサインにスイッチオン。4コーナーではあっさりと先頭に立ち、そのまま押し切った。騎乗4戦目の主戦は後ろを振り返りながらで、最後は余裕のゴール。後藤保厩舎のハロープリンセスに2馬身半差。中京盃2着のアーデントラブが3着で続いた。
距離延長で差す競馬を覚えたマーチは最後方から追い上げたが、キャップから6馬身差の4着。2頭の芦毛対決はキャップが4連勝。力の差は広がった。このレース、注目すべきは2着に入ったハロープリンセス。中央の馬主資格も持つ佐橋五十雄オーナーがキャップの強さを再認識し、中央へのトレード話を小栗孝一オーナーらに持ち掛けてきた。ハロープリンセスは翌春、桜花賞を目指して報知杯4歳牝馬特別にも挑戦したが13着に終わった。

■中日スポーツ杯(名古屋、1400メートル)のレース結果(3歳は現2歳)
馬番 馬名 性年齢 重量 騎手 厩舎 タイム 人気
4 オグリキャップ 牡3 54 安藤(勝)鷲見 1.29.8 ①
3 ハロープリンセス 牝3 53 黒宮 後藤(保)1.30.3 ④
1 アーデントラブ 牝3 53 田中 竹口 1.31.0 ③
2 マーチトウショウ 牡3 54 原(隆) 後藤(四)1.31.3 ②
6 エイワイシティー 牡3 54 竹地 戸沢 1.31.4 ⑧
11 ミサトネバー 牡3 54 仙道 柴田 1.31.7 ⑥
9 キジヨーボーイ 牡3 54 原口 磯村 1.32.5 ⑧
7 ヤマニンテンザン 牡3 54 井上 伏見 1.32.6 ⑩
5 ピンクコマンド 牝3 53 迫田 永田 1.33.1 ⑦
10 シービーキグナス 牡3 54 川原 村松(友)1.33.1 ⑤
12 リキパーソ 牝3 53 深見 福田 1.34.0 ⑪
8 トヨノシンボル 牡3 54 村瀬 岩田(克)1.35.4 ⑫

■「外車に乗った感じで、最後の直線で一気に来る」
キャップの走りはどんな感じだったのか。鷲見元調教師に聞いた。「そりゃ、外車に乗ってるようなもんやわ。ヒャーッと低くなって地をはうような走りで伸びた。4コーナーまではケツでもよく、最後の直線になったら、気持ちのいいくらい一気に差し切った」
6戦目の秋風ジュニアからキャップにアンカツさんが乗りだして、鷲見さんは「馬は動いた。勝己が乗ると、他の馬も走ったからなあ。ちょっと走らん馬でも勝ったりして」。騎乗ぶりについては「やっぱり、しっかりと追っつけてくれた。乗っている時、兄の光彰よりも体は硬いように感じたが、本当によく追ったし、乗れたなあ」と18年連続、計19回もリーディングに輝いた笠松時代のアンカツ騎乗をたたえた。
鷲見さんは調教でキャップによく乗ったそうで「主に厩舎の高橋が騎乗していたが、自分も調教では結構乗ったよ。スピードがある馬は疲れない。気持ちがいいし、フワーッと行くからね。走らない馬は軽トラで、走る馬は外車に乗った感じだった。馬にまたいでみれば、走るか走らないかだいたい分かった」という。
■田口貫太パパもキャップの攻め馬に励んだ
秋風ジュニアでのキャップの調教タイム欄には「田口」の名前もあった。田口貫太騎手のパパである田口輝彦騎手(現調教師)だ。馬なりで好タイム「馬力は最高」とある。当時22歳だった田口パパ。キャップの背中を知っている数少ない乗り役の一人であった。出馬表にある調教欄も入念にチェックされている読者からの情報で判明した。
そういえば以前、笠松競馬場での「オグリの里」即売会に立ち寄った田口パパ。並べていた当時の出馬表を手に、懐かしそうに眺めていらっしゃった。「この頃、乗っていたから」とのことだったが、キャップの攻め馬にも励んでいたとは。またマーチトウショウには笠松時代の川原正一騎手(兵庫)が調教やレースで騎乗していた。オグリの里「X」でも紹介したところ「貫太パパ、オグリキャップに乗ったことあったのね」「園田の川原ジョッキー、マーチトウショウに乗ってたんか」などとファンからも驚きの声が多く寄せられた。

■10戦目(1987年12月7日)
古馬初挑戦、ハクリュウボーイとも芦毛対決
ここからは笠松時代のキャップのレースぶりを、再び競馬専門紙「エース」で振り返る。ジュニアクラウンから中9日で挑んだ芝1200メートルの中京盃(中京)で滑らかなフットワークを見せて、キャップは芝レースへの適性を発揮。続く中日スポーツ杯(名古屋)でもハロープリンセスなど名古屋勢を圧倒。3歳(現2歳)の暮れには早くも古馬勢とB2特別で対戦した。現在では地方・JRAを含めてもあり得ない一戦だった。この大きな経験が中央移籍後の重賞6連勝にもつながった。

デビュー10戦目は笠松での師走特別(1600メートル)で、笠松のレジェンド誘導馬「パクじぃ」ことハクリュウボーイとの芦毛対決となった。2024年の師走特別はB1クラス1400メートル戦で1着賞金70万円。38年前はB2クラス1600メートル戦が1着150万円で、2倍超と高額だった。笠松競馬の盛衰も感じられる数字だが、昭和当時の物価を考えると、レース賞金はもっとアップしてもいいのでは。

■3番人気のハクリュウボーイにハマちゃん騎乗
秋風ジュニア以降のキャップのレース映像は、ユーチューブ動画でも見ることができる。典型的な逃げ馬の5歳(現4歳)ハクリュウボーイは「▲印」で3番人気。ここまで24戦9勝で全て逃げ切り勝ち。3走前に勝ったハマちゃん(浜口楠彦騎手)の手綱で3コーナーまで快調にハナに立っていたが、ヤングオージャ(樋口富男騎手)が仕掛けると、向正面5番手を進んでいたキャップのエンジンも全開。3~4コーナーで大まくり。後続を一気に突き放すと、先行集団は次々と脱落。ゴールでは6馬身差の圧勝。タイムは1分44秒4で古馬勢を1秒3もちぎった。

中央入り後のマイルCSや安田記念も含めて7戦7勝と最も得意とした距離で、マイルは無敵だった。2着は単勝9番人気で「×印」のヤングオージャ、3着は「○印」のテイオースター(伊藤強一騎手=現調教師)。ハクリュウボーイは5着で掲示板を確保した。キャップの単勝は中日スポーツ杯の120円からやや上がって170円。枠連7―8は830円とキャップ笠松時代では最高額となった。

■次世代スターホース「古馬もまっ青!オグリキャップの豪脚」
特筆すべきは、現2歳の段階で既に古馬勢の現4~8歳馬と対戦し、圧倒していたこと。「胸のすくレースぶり。前代未聞のスピード出世。まさしく個性派スターの出現を告げる」「古馬もまっ青!三歳オグリキャップの豪脚」と見出しも躍り、次世代スターホースの出現を歓迎した。
アンカツさんの手綱さばきとともに、自分からレースをつくり出すキャップ。ハクリュウボーイら古馬との対戦はデビューから既に10戦目。この経験でキャップ自身も古馬の風格を漂わせて、中央入り後は同世代のエリート馬を子ども扱いにした。「勝負どころの3~4角で大外の専用コースを進出し始めると場内がドッとくる」。キャップの聖地・笠松。ライブ観戦で、こんなスターホースがまた出現したら、ウマ娘ファンも熱狂することだろう。

■オリジナルポストカードやキャップ笠松時代の出馬表もプレゼント
4月29日~5月2日、アニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」×笠松競馬場コラボイベントが開催される。「オグリの里」も東スタンド裏で出店し「1聖地編」「2新風編」に続く新刊「3熱狂編」の即売会を開く。購入していただいたウマ娘ファンらには売店利用者特典としてポストカードをプレゼント(4日間)。
また「オグリの里」オリジナルとして「ウマ娘シンデレラグレイ賞」過去3回のゴールシーンや優勝馬の口取り写真など計8種類と、昨秋永眠したラブミーチャンの追い切り写真ポストカードも用意。本を購入された方にプレゼントする。30日~5月2日には「オグリの里」で紹介しているオグリキャップ笠松時代の出馬表(10レース分のコピー)も希望者にプレゼントする(1日10人限定)。
昨年大好評だった「推しウマ娘は○〇だ」の第2回人気投票も4日間実施する。
「オグリの里」コーナーへ気軽に立ち寄って「推しウマ娘」に投票してください。
トレーナーの皆さん、オグリキャップなどお気に入りの馬たちの話で盛り上がりましょう。
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆「オグリの里3熱狂編」も好評発売中
