自厩舎のエイシンドラーゴとのコンビで1番人気、10年ぶりに勝利を飾った柿本量平騎手

 「めちゃくちゃうれしいです。勝つって、こういう感覚だったんだ」。笠松競馬場で期間限定騎乗の柿本量平騎手(34)が実に10年ぶり、忘れていた勝利の味をかみしめた。

 エイシンドラーゴ(牡4歳)に騎乗し、ファンの熱い声援を背中に受けて1着ゴールを飾ったのだ。満開となった桜並木もバックに駆け抜け、笠松競馬場内は大盛り上がり。これまでゴールは遠かったが「サクラサク」活躍ぶりで期待に応えた。
 
 「オグリの里」のⅩ(旧ツイッター)で喜びの声を伝えたところ、画面越しのファンの反応がすごかったので、急きょ「増刊号」扱いで掲載することにした。

 千葉県出身で船橋所属の柿本騎手は2011年5月デビュー。14年間で通算797戦、5勝目となった。佐賀での期間限定騎乗中の15年3月8日、1番人気のキングリホリホで逃げ切り、通算4勝目を挙げた後、勝利から遠ざかっていた。レベルが高い南関東では有力馬は回ってこず、1番人気での騎乗はなかった。

4コーナー奥の堤防道路桜並木は満開となって、熱戦が繰り広げられた笠松競馬場

 ■「何とか勝ってほしい」と熱い応援

 昨年11月6日から3カ月間、期間限定騎乗で笠松で騎乗したが勝利を挙げられず、5月5日まで期間を延長した。笠松では2着5回、3着2回。所属は藤田正治厩舎で今年リーディング3位。名古屋の騎手が騎乗することが多く、笠松では柿本騎手が主戦を務めているが、勝ち星には恵まれなかった。

 ファンの間では、勝利から見放されたジョッキーとして注目を浴びるようになった。かつて未勝利記録(113連敗で引退)で人気を集めた高知のハルウララのように「何とか勝ってほしい」と応援が増えてきた。今回も100円の単勝馬券「1」を買うファンが多かった。

 地方競馬では2001年にデビューした折笠豊和騎手(浦和)が、初勝利から2勝目までの間の810連敗で、騎手としての最長連敗記録。1638戦4勝で2017年1月に引退した。JRAでは木幡初也騎手と山田敬士騎手の299連敗がある(1986年以降)。日本馬の連敗記録は牝馬ダンスセイバー(北海道)で10歳まで走り続けて229連敗だった。

エイシンドラーゴに騎乗した柿本騎手、歓喜の1着ゴールイン

 ■単勝1番人気も10年ぶり「柿本、来たー。いけるぞ」

 その瞬間は「幸せの日」とも言われる4月4日、笠松競馬第4レースで訪れた。単勝1番人気(2.2倍)とファンの支持を集め、自厩舎の先行馬エイシンドラーゴ(牡4歳)に騎乗。柿本騎手が1番人気馬に乗るのは笠松初めてで、10年前に佐賀で勝って以来となった。

 エイシンドラーゴには11日前のレースでも騎乗。専門紙「競馬エース」は無印だったが、意外にも2番人気に推され、半馬身差の2着と好走していた。走破時計が1分30秒4と優秀で、今回は予想にも◎印が付いており、堂々の主役。B11組からC5組にクラスも下がり、相手関係は楽になった。勝利を願うファンの期待も場内に充満。満開の桜で春らんまん。人気馬騎乗でV条件は整った。

 この開催はインが軽くなっており、逃げ馬有利の馬場状態。柿本騎手にとって、1度たたいた上積みもあって1番枠から積極策を敢行した。1400メートル戦。好スタートから激しい先陣争いを制して1周目ゴール前を通過。「柿本、行けー。よしっ」と歓声が上がった。

 向正面でも2馬身ほどリード。4コーナーから3馬身、4馬身と引き離し「これは勝てるぞ」。信じられないがセーフティーリードだ。名手の筒井勇介騎手、岡部誠騎手らは後続のまま。最後は藤原幹生騎手が迫ったが2馬身差。スタンド前では「柿本、来たー。いけるぞ」と重賞レース並みの大声援で沸騰した。

騎乗馬エイシンドラーゴのゼッケン1番を掲げて笠松、名古屋の騎手仲間らから祝福を受けた柿本騎手(笠松競馬提供)

 ■早大競馬サークル協賛「やったー、うわーっ」「おめでとう、柿本さん」

 そしてついに柿本騎手が10年と27日、554戦ぶりに1着ゴールインを果たした。タイムは1分29秒8で前走以上。「やったー、うわーっ」「おめでとう、柿本さん」とたたえる熱烈なファンたち。笠松では最後にかわされて2着も多かっただけに、久々の勝利の味は格別だった。ゆっくりと1~2コーナーをウイニングラン。2着の藤原騎手が駆け寄り、祝福のグータッチを交わした。

 ゴール前、柿本騎手の勝利を確信したファンらも熱狂。このレース、早稲田大学の競馬サークル「テンポイント」による「MNGW(ミナガワ君)は卒業できたのか!記念」の個人協賛レースでもあった。南関東での騎乗ぶりも見てきた若者グループがライブ観戦に訪れて大歓声。みんなで「柿本」を連呼し、ゴールイン直後には万歳もしながら「柿本、おめでとう」の声を響かせた。

 装鞍所前に戻ると、待ちに待った「1着」の枠馬で、厩舎スタッフに迎えられた。柿本騎手は勝ったエイシンドラーゴの前で1番のゼッケンをいとおしそうに掲げて、晴れやかな笑顔を見せた。この日騎乗の笠松所属騎手12人全員と名古屋の騎手も加わり「おめでとう」の嵐―。長いこと勝っていないことを知っていたし、期間限定騎乗の笠松初Ⅴでも祝福した。

柿本騎手ゴールの瞬間、忘れていた勝利の味は格別だった

 ■8頭立てでも3連単13万7070円と高配当

 柿本騎手は下位人気馬に乗ることが多いが、1番人気ならちゃんと結果を残し、ファンの期待に応えられるジョッキーであることが分かった。早稲田大学競馬サークルの4人がゼッケンを手にした柿本騎手と記念撮影。「サインを頂きましたが、柿本さんは優しくてすてきな方でした」と、みんな最高の笑顔で喜びを分かち合った。

 このレース、1番人気が勝ったのに波乱を呼んだ。6番人気、8番人気が2、3着に入り、8頭立てでも3連単13万7070円と高配当。ちょっと狂うと6桁も出ちゃうのが、穴党にとって笠松競馬の面白いところ。「笠松は少頭数だから、馬券を買う気になれない」という声も時々聞こえてくるが、捨てたものでもない。

 連続4日間開催だと出走馬が足りず、8頭立て以下がほとんど。枠連は売られないことが多いが、これが異変をもたらす。9頭以上だと枠連の高配当が目立つのだ。3日目の10頭立てJRA交流では「馬連1570円」に対して「枠連3470円」と倍以上の珍現象を呼んだ。ファンは枠連が売られていることに気付かないのかも。

 ■柿本騎手「勝ったのかなあ。また2着かなあ」と半信半疑

 最終12R、6番人気で4着と掲示板を確保し、ホッと一息。勝利を飾り、ガッツポーズで写真撮影にも応えてくれた柿本騎手に喜びの声を聞いた。

レース後、ガッツポーズで喜びを語った柿本騎手

 ―4Rいいレースをされましたが、逃げ有利な馬場で作戦通りでしたか。

 「ありがとうございます。いやまあ、行く気ではいました。(今開催の馬場は)逃げ一辺倒でしたね」 

 ―久しぶりの勝利ですが、どんな感じですか。

 「めちゃくちゃうれしいです。勝つってこういう、ああ1着ってゴール板を駆け抜けた時、こういう感覚だったんだあと(笑い)」

 ―でも4コーナー回った時、もう勝ちそうな雰囲気だったから。

 「いやもう、なんか気持ちに余裕なかったんで、そんなこと考えてなかったです。ゴール板過ぎても、アレッという感じだったんで。もう勝った時の感覚が全くないから。そうすねえ、だから余計にアレー勝ったのかなあ。また2着かなあとかいろんなこと考えてました」

 ■2着の藤原さんが一番最初に「やったー」って

 ―2着、3着が多かったからね。勝ってファンも盛り上がっていましたよ。

 「俺のファンではないでしょう。たまたまこう歩いていた時に勝ったんでしょう。来場されていて」

 ―声は聞こえましたか。「柿本、おめでとう」と大きい声いっぱい出てましたよ。

 「いやもう余裕ないんで、本当に。全然、何も聞こえなかったです」

 ―誰かジョッキーに声を掛けられましたか。藤原さん2着だったから。

 「みんなに『おめでとう』って。藤原さんが一番最初に『やったー』って言ってくれたんで、うれしかったです」

ファンの大声援を背に受け、ゴールを目指す柿本騎手

 ■「天に昇るぐらいって、こういう感じかな」

 ―どのくらい、うれしいですか。

 「いやもう本当に天国に行くぐらい。天に昇るぐらいってこういう感じかな、ハイッ」

 ―10年ぶりですが、これまで苦労されたと思いますが。

 「いや7年ぶりです。面接官に言われましたから」

 (食い違いがあったので調べたらやはり10年ぶり。関係者も本人も遠い記憶のことで、長い年月が過ぎていたということだろう)

 ―期間限定騎乗を延長されたんですが、こっちにいる間に1勝してもらえてうれしいです。期間はもっとどうですか。

 「うれしいです。一応5月(5日)までですが。船橋の関係者の方にも相談して、一番いい決断したらいいかなと。まだ何とも言えないです」

 ■ファン「今夜、何食べたいか」柿本騎手「焼き肉」

 ―ファンの間では「もう笠松へ来ちゃったらいいのに」という声もありますよ。

 「そんないいこと言ってくれてる人もいるんですか」

 ―いやいや騎手は足りないしね。調教も多いでしょうから、いま何頭ぐらい乗っているんですか。

 「俺、全然乗っていないです。12頭ぐらいしか」

 ―ファンが聞いていたのは「今夜、何食べたいか」と。

 「焼き肉」と即答されたので、「きょうはもう上がりだからいいですよね。藤田厩舎もよく勝つようになってきたし、また2勝目を期待しています」と送り出した。

 ジョッキーの皆さん、祝勝会はやっぱり焼き肉パーティーが多いようだ。2日前、ラジオのFM番組に出演した筒井勇介騎手も好物は「焼き肉。岐阜は飛騨牛がおいしいから」などと質問に答えていましたね。

柿本騎手(中央)の笠松での期間限定騎乗歓迎セレモニー

 ■前を向いて努力、メンタルの強さ素晴らしく「次の1勝」を

 柿本騎手、本当におめでとうございます。長年勝てない日々が続いていたのに、くじけずに前を向いて努力され、頑張っている姿は、関係者も応援するファンの皆さんもよく見てきたことでしょう。メンタルの強さは素晴らしい。

 最近ではJRAや地方競馬でも、調整ルーム内スマホ使用などのトラブルを起こしたり、体重管理がうまくいかずに引退する若手騎手も目立っている。たとえ騎乗馬に恵まれず勝てなくても、ジョッキーは粘り強く長く続けることが大切。柿本騎手には笠松競馬での経験を生かして「次の1勝」を目指していただきたい。

 昨年、南関東では(8月まで)騎乗数が14戦と減っていただけに、騎乗機会を求めて笠松へ。 11月の期間限定騎乗歓迎セレモニーでは「向こうでほとんど乗っていなかったので、笠松で1鞍でも多く乗って、早く1勝したいです」と初日から3鞍騎乗。「もっとコーナーがきついイメージでしたが、いざ乗ってみるとそんなにきつくなかったです」。初コースで緊張気味だったが、ファンの求めるサインにも気軽に応じ交流を深めていた。

 南関東の騎手で思い出すのは大井の田中洸多騎手。3年前、笠松で期間限定騎乗。デビューして2年近くで3勝と、南関東では厳しさを味わっていたが、笠松では5カ月間に13勝を飾った。笠松競馬は一連の不祥事で騎手が半減していた頃で、騎乗機会には恵まれた。

 ■「ついにこの日を迎え、全開催追い続けて良かった」

 柿本騎手に対してネット上でもファンが大盛り上がり。「ついにこの日を迎えることができました。笠松にいる間も勝てないかと思った日もあったけど、諦めずに全開催追い続けて良かった」

 「おめでとうございます。超興奮した! 勝利した4R直後、5Rの返し馬でスタンド前に来てくれた。まるでウイニングランをしているみたいで、お客さんから祝福の声が掛かっていた」
 

最終12R「C級サバイバル」は最後のたたき合いで、4着同着に突っ込んだ柿本騎手(右)

 ■「ずっとここ笠松にいてもらいたい」完全移籍の道も

 笠松競馬場に今開催4日間通って応援した柿本騎手ファンからも熱いメッセージ。「このまま勝てずに南関東に帰るのかなというところで期間延長もして、ようやく1勝してくれた。10年間勝っていなくて『早く一つ勝ってほしいな』とずっと応援してきたのでうれしいです。帰るまでにもう1勝してほしいですね」と期待を込めた。「でも帰ってほしくないし、このままずっとここ笠松にいてもらいたいですね。乗れると思っているんで笠松だったら。最近どんどん成績も良くなっているし、2着にも入ってくるようになったし、笠松の馬場が、馬が合っていると思います」

 最終12R、近走不振馬による「C級サバイバル」で柿本騎手は6番人気ティエラサンライズに騎乗。最後のたたき合いで、馬渕騎手と4着同着に突っ込み掲示板は確保。次走以降の手腕に期待が持てる騎乗ぶりだった。

 笠松では5カ月で139戦と乗り鞍が増えており、やりがいもあることだろう。さらなる期間延長、あるいは4着同着だった馬渕繁治騎手、セレモニーでプラカードを持ってくれた松本剛志騎手のように笠松への完全移籍の道もある。

 笠松競馬では近年、オマタセシマシタをはじめハルオーブ、アオラキら未勝利の人気馬が出走し、パドック周回から熱い視線を浴びてきた。柿本騎手を知るファンは現場では一部だが、ネット越しには全国のファンがこれからも注目している。有力馬にもっと乗せてもらって2勝目、3勝目を飾り、笠松競馬をもっと盛り上げてもらいたい。


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 (筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
 
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