
ウマ娘ファン待望の人気漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」テレビアニメ化に続いて、29日から4日間、笠松競馬場内ではコラボイベントも盛りだくさん。第4回「ウマ娘シンデレラグレイ賞」(29日)も開かれ、聖地巡礼の若者らが多く来場する。昨年のレース当日には8290人が入場したが、今年はそれ以上に大盛況となりそうだ。
アニメ「ウマ娘シンデレラグレイ」の放送に合わせ、笠松時代のオグリキャップの走りを実際のレースごとに回顧する2回目。
大食いキャラでバリバリ食べて、馬体重は5月のデビュー時452キロから8月末の秋風ジュニアでは476キロに増量。食欲の旺盛さはその後の躍進も決定づけたといえる。
マーチトウショウとの「笠松版・芦毛対決」をメインに、当時の出馬表(競馬エース)や鷲見昌勇元調教師、アンカツさんの証言も交え、夏場に急成長を見せたキャップの5~7戦目(秋風ジュニアやジュニアクラウン)を振り返った。

■5戦目(1987年8月12日)
「芦毛対決」3戦目でリベンジ、キャップが初勝利
デビュー5戦目は宿敵マーチトウショウの連勝で迎えた直接対決。もう負けられないオグリキャップが最高の走りを見せた。苦手の800メートル戦も5回目。3歳馬(現2歳馬)によるフレッシュな戦いだったが、古馬には強い馬がゴロゴロいた時代で、キャップはまだ無名の存在だった。
中央入り後は、タマモクロスとの芦毛対決で騒がれたが、それ以前に繰り広げられていたマーチとの「元祖・芦毛対決」は3戦目。マーチにクビ差負けが続いていたキャップは「○印」で2番手の評価。専門紙には「4戦してすべて連対に絡んでおり、連の軸か。すかさず反撃」とあるが、まだ主役ではなかった。キャップに連勝したマーチが当然「◎印」で、川原正一騎手が初騎乗。前走では最後方発進から一気に馬群を割った力強い競馬。2頭による一騎打ちが濃厚だった。
■アンカツさん、キャップに追い抜かれた
「次はお前の番だ」と逆転を期待され、ファンからはキャップが1番人気の評価。引き続き高橋一成騎手が騎乗し、8頭立てで6番手からのスタート。マルカマドンナが逃げて、4コーナーではミルジョージの子・コトブキゼウスが先頭を奪った。
キャップは3番手を進んでいたマーチをかわし、2番手に上がると直線では一気に突き抜けた。何とか2着は死守したマーチに「2馬身半差」。3度目の対戦でついにキャップが先着し、リベンジを果たした。タイムも自己最高の49秒7をマークした。
3着はコトブキゼウス。アンカツさんはまだキャップとコンビを組んでおらず、騎乗した△フェートオーカンで6着。皮肉なことだが、キャップに追い抜かれ、豪快な追い込みを見せつけられたことになった。

芦毛対決の枠連配当は250円。大口の勝負もあったことだろう。入場者数は6000人余りで馬券の売り上げは約2億5000万円。競馬場だけでの純粋な販売額で、実利は大きかった。インターネット販売なら10%超が手数料に消えるが、当時の人はそんな時代が来るとは夢にも思わなかっただろう。バブル景気で入場者が多く、競馬場は大いに潤っていた。
■サマータイム薄暮レース、ハクリュウボーイの名も
キャップのレースは若駒たちの生き残りを懸けた戦い。開催初日の1Rだったが、2強マッチでファンも注目し始め、馬券の売れ行きは上々。出走表を改めてよく見ると、1R発走は午後1時30分とある。笠松でも夏場には「サマータイム薄暮レース」が行われていたのだ。お盆シリーズで最終10Rは午後6時以降の発走。岐阜日日新聞(当時)の予想欄広告には「午後5時30分までの入場者に飲み物進呈」とある。当時は入場者が多い土曜、日曜にもレースが開催されていた。
10Rの3枠には笠松のレジェンド誘導馬「パクじぃ」ことハクリュウボーイの名もあり、その後、キャップとも同じレースで走った。国内最高齢の誘導馬として30歳まで長生きしたが、2013年6月1日に天寿を全うした。笠松競馬を長年支えてきたパクじぃの遺志はエクスペルテとウイニーに受け継がれたが、その2頭も今年3月末で引退した。

■6戦目 秋風ジュニア(1987年8月30日)
アンカツさん騎乗、初の1400メートル戦で豪脚発揮
暑さに弱い競走馬だが、デビュー後のキャップは真夏の暑さにも食欲旺盛で飼い葉を食べ尽くし、馬体の成長期に力をつけて連勝街道を突っ走った。
前走でキャップは宿敵・マーチトウショウに3度目の対戦で初勝利。中央でタマモクロスを倒したのも3戦目だったが、「元祖・芦毛対決」の死闘は激しさを増していった。
8月30日には初の1400メートル戦「秋風ジュニア」でアンカツさんが初騎乗。距離延長は望むところで、一桁違うような豪脚でマーチトウショウに4馬身差の圧勝。 対戦成績を2勝2敗とした。1~3着は人気通りで、枠連⑤⑧は220円という順当レースだった。
マーチがキャップに連勝していたが、単勝1番人気はキャップ、2番人気はマーチ。ファンはやはり素質の高さを見抜いていたようだ。ただ複勝では異変。単勝6番人気のマルカマドンナ=伊藤強一騎手=が複勝1番人気となった(結果は5着)。
■「ゲートでブルブルッ、ゴーサインを出すと追った分伸びてきた」
6戦目からはレース映像も残っている。ユーチューブ・笠松けいばチャンネル「アンカツがオグリキャップを語る」では、秋風ジュニアの貴重なレース映像も配信。アンカツさんは「鷲見先生から1回頼むわ、乗ってみてくれという感じでした」とキャップに初騎乗。ゲートにすぐ入らなかったのは「すごく嫌な訳じゃなく、ゲート前で1回立ち止まって、あごを出してブルブルッとやっていた」とのことでスタート前、やはり武者震いがあったそうだ。

初めての1400メートル戦については「800メートルはスタートが下手で思ったレースができなかった。敏感な馬じゃなくゴーサインを出さないと動かないタイプだったが、追い出すと追った分伸びてきた」と振り返った。馬体については「きゃしゃでまだ緩い時期でした。ちょっと気持ち悪いところもあって、前脚の出し方が独特で、低くて引きずるように出すから、何かにつまずいたら転ぶんじゃないかというフットワークだった」と、地をはうような低姿勢には不安もあったという。
■夏場も食欲旺盛、馬体重増やし快進撃続けた
800メートルから距離が延びた秋風ジュニアから主戦となり「その後は乗るのが当たり前のようになっていった」という。アンカツさんとのコンビで連勝街道を突っ走った。
人気のウマ娘では随一の「大食いキャラ」のキャップ。夏場も食欲が落ちることなく、飼い葉食いが良かったようだ。馬体重は6~8月の5戦で450キロから26キロ増量させた。他馬は現状維持が精いっぱいだが、キャップはよく食べて体力を蓄えた。暑さにも強く、8月以降は8連勝で古馬も撃破。夏バテしない強みが成長力を高めて、快進撃を続けた。

■7戦目 ジュニアクラウン(1987年10月4日)
マーチ激走に冷や汗、キャップ差し返しハナ差勝利
デビュー7戦目は、宿敵マーチとの5度目の「芦毛対決」となったジュニアクラウン。当時は重賞で、2012年から準重賞(JRA認定競走)になったレース。2頭のマッチレースは漫画「ウマ娘シンデレラグレイ」でも迫力満点に描かれ、笠松時代のハイライトシーンにもなった。キャップは早めに先頭に立ち過ぎてマーチの追撃を食らい、差し返してハナ差の辛勝。名手・アンカツさんをヒヤリとさせた。
キャップはデビュー戦、4戦目でマーチトウショウにクビ差負け。5、6戦目では2馬身半、4馬身差で逆襲した。これまで2勝2敗で、対戦成績でも決着をつける一戦となったが、まさかのレース展開となったのだ。

■早めに先頭に立ち過ぎ、まくられたが猛然と差し返した
キャップには前走に続いてアンカツさんが騎乗。8月末の秋風ジュニアから9月は休養に当てて登場。「競馬エース」では、距離が延びて圧勝した前走内容から「将来A級の声が上がるのも当然か」とキャップを絶賛。◎印を並べ、原隆男騎手騎乗の○印・マーチトウショウとの一騎打ちを予想した。
5番手から進んだキャップはいつもより早めに進出。3~4コーナーでは3番手から先頭に立ってしまった。ところが、マーチトウショウもすごい脚で上がってきて、ゴール板まで約300メートルのマッチレース。4コーナーを回るとマーチが一気にまくり、先頭を奪った。負けられないキャップとアンカツさん。中央・マイルCS戦でのバンブーメモリーとの死闘のような展開で、内から猛然と差し返したキャップ。

■激しいたたき合いでハナ差V、2年後のマイルCS勝ちに生かした
場内の実況も「最後の直線を向いた。マーチトウショウが先頭を奪っている。2番手オグリキャップ。2頭の激しいたたき合いだ。外の9番マーチトウショウか、5番のオグリキャップか。ゴール前では2頭が並んでおりました」と壮絶なバトルになったが、キャップが先にゴールインしていた。ハナ差だから当然写真判定。この経験は、2年後のマイルCSハナ差勝ちに生かすことができた。インからバンブーメモリーを際どく差し切ったのだ。
10日後には中京での芝レースを控えており、アンカツさんは少しでも楽な競馬をさせようと3コーナーから動いて先頭に立ったが、マーチトウショウの健闘が光った。ともにラスト38秒7の末脚で、配当は枠連で190円。「芦毛対決」を勝負根性で制したキャップの笠松時代のベストレースといえよう。

■トレーナー「命の次に大事な金を賭けてくれて、負けられない」
「ファンのために負けることはできない」。1着オグリキャップ、2着マーチトウショウが続き、ジュニアクラウンまで3連勝。笠松時代の調教師だった鷲見昌勇さんは勝ち続ける苦しみも味わったという。「キャップが連勝中は夜寝られなかった。ファンのことを思わないといけなくて苦労もしました」とトレーナーとしての本音を漏らしてくれた。
「キャップは本命で、どの新聞を見てもグリグリの◎印だったので」。当時、笠松の競馬専門紙は4紙(エース、東海、競新、中部優駿)もあった。「ファンが命の次に大事な金を賭けてくれるわけで、負けることはできない。レースの前日はファンが厩舎にも多く来て、寝られなかったし、勝ちっ放しの間はあまり眠ることができなかった」と振り返った。
勝利の喜びとともに、勝ち続けることでプレッシャーも感じていたのだ。「負けたらあかん。ファンに対して気の毒で。馬に何かあったら、すぐに飛んでいかないかんし寝られなかった」。中央デビュー後も重賞6連勝。「瀬戸口さん(調教師)も寝られなくて、大変やったと思うよ。天皇賞でタマモクロスに負けてちょっと楽になったのでは」。競走馬とは、ファンの思いも背負って走ってくれているのだ。キャップの引退レースでもファンが背中を押してくれたのだろう。

■「ジュニアクラウン」のゼッケン(レプリカ)11万円で落札
ところで、2022年の笠松競馬秋まつりで盛り上がったチャリティーオークション。オグリキャップが勝った「ジュニアクラウン」のゼッケン(レプリカ)がお宝グッズとして出品され、ファンによる争奪戦が繰り広げられた。
ウマ娘効果もあったのか「オグリキャップ&アンカツ」最強コンビの人気は健在で、ゼッケンは最高値の11万円で落札された。威勢のいい掛け声が飛び交い、笠松競馬のオークション史上でも名勝負となった。
■「オグリの里」も出店、ポストカードをプレゼント
4月29日~5月2日の新緑賞シリーズではアニメ「ウマ娘 シンデレラグレイ」×笠松競馬場コラボイベントが開催される。「オグリの里」も出店し「1聖地編」「2新風編」に続く新刊「3熱狂編」の即売会を開く。購入していただいたウマ娘ファンらに は売店利用者特典としてポストカードをプレゼントする。
また「オグリの里」オリジナルとして「ウマ娘シンデレラグレイ賞」過去3回のゴールシーンや優勝馬の口取り写真など計8種類と、昨秋永眠したラブミーチャンの追い切り写真も用意。希望者にプレゼントする。

■「推しウマ娘は○〇だ」人気投票、昨年はオグリキャップ優勝
「オグリの里」コーナーでは、昨年大好評だった「推しウマ娘は○〇だ」の第2回人気投票も実施する。
ウマ娘トレーナーの皆さんによる昨年の第1回「推しウマ娘」人気投票のベスト20は次の通り。
【優勝】オグリキャップ49票
【2着】シュヴァルグラン23票
【3着】ライスシャワー22票
④キタサンブラック、サイレンススズカ18票
⑥ゴールドシップ16票
⑦キングヘイロー14票
⑧メイケイエール12票
⑨スティルインラブ 、シンボリルドルフ、アグネスタキオン、カツラギエース10票
⑬コパノリッキー、タマモクロス、マンハッタンカフェ8票
⑯ファインモーション、ミスターシービー、メジロマックイーン、タイトルホルダー、ドゥデュース7票
☆ファンの声を募集
競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見などをお寄せください。笠松競馬からスターホースが出現することを願って、ファン目線で盛り上げていきます。
(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆「オグリの里3熱狂編」も好評発売中
