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パドックを周回するオグリマックイーンと後方は誘導馬のエクスペルテ。ファンの熱い視線を浴びていた
メインの重賞後、スタンド前はいつもスカスカになる笠松競馬場だが、この日は最終11レースでも多くのファンがラチ沿いでカメラやスマホを構え、声援を送った。生誕40周年を迎えたオグリキャップの血統を受け継ぐ、ある1頭が待望の聖地・笠松デビューを果たしたのだ。
その馬はオグリマックイーン(牡4歳、名古屋・沖田明子厩舎)。もちろん芦毛馬だ。門別を経て名古屋で2勝、デビューから19戦目。笠松競馬場には初見参で、この日の重賞レースよりも注目していた。2月20日、C1特別戦に挑んで結果は4着に終わったが、確かな末脚で次走につながる健闘を見せた。「平場なら次は勝ち負け」とジョッキーから力強い言葉もあり、聖地でも初Ⅴが見られそうだ。
ファンの間では「オグマック」とも呼ばれ、オグリキャップ(母母父)のひ孫で、メジロマックイーン(父父)の孫でもある。芦毛2頭の現役時代を知る昭和生まれの競馬ファンにとっては、馬名を聞いただけでワクワクさせられ、血統ロマンをかき立てられる。
■「オグリキャップの血統を守り、後世に残したい」
オーナーは高木毅さんで「オグリキャップの血統を守り、後世に残したい」と血脈継承に情熱を燃やしている。中央GⅠでは共に4勝を飾ったオグリキャップとメジロマックイーン。馬名に「世代を超えて血統を継ぐ」という願いを込めた。
オグリマックイーンの父はギンザグリングラス(中央1勝、南関東2勝)で、9歳まで109戦も走ったタフな馬。現在、メジロマックイーン唯一の後継種牡馬。中短距離馬で産駒10頭のうち6頭が勝利を飾っている。
母はアザヤカサクラ(母父サウスヴィグラス)で、大井を中心に71戦13勝。名古屋で6勝、笠松でも1400メートル戦で1勝を挙げており、ほとんどが逃げ切り勝ちだった。母母がキョウワスピカでオグリキャップの娘。次世代へのバトンは細い糸にはなったが、キャップの血統は脈々と受け継がれている。
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オグリマックイーンの返し馬を見守るファンら。オグリキャップの大きなぬいぐるみを手にしたオーナーさんの姿も
■特大ぬいぐるみ抱えての応援も
レース当日、オグリマックイーンは弥富の厩舎から笠松競馬場へ出発。ファンの注目度も過熱。「応援に行くよ。笠松で走る姿が楽しみ」「ワクワクドキドキ。名前が最強馬」と期待する声がネット上で相次いだ。
最終レース、午後5時を過ぎて岐阜地方の気温は4度ほど。木曽川河畔にある馬場はさらに冷え込み、伊吹おろしが身に染みる。迎えた最終レースはC1「フクジュソウ特別」。ラチ沿いにはオグリキャップとみられる大きなぬいぐるみを抱えたオーナーさんの姿もあった。名古屋からの遠征馬は笠松で優位感もあり「勝てるかも」と1着ゴールを願った。
特大ぬいぐるみはキャップが最初の有馬記念Ⅴ後に発売された。「ゼッケン10番」で当時、早速買い求めて、わが子をオグリの背中に乗せてよく遊ばせたものだ。今もわが家に飾ってある。競馬場グッズとして大ヒットし、若い女性らを中心に飛ぶような売れ行き。ぬいぐるみを抱えた「おやじギャル」の姿も増えて、爆発的な競馬ブームにつながった。発売されたビデオ「昭和最後の名勝負」にも胸を躍らせた。この頃はタマモクロス、オグリキャップ、サッカーボーイが3強で、熱い闘いの軌跡はネットでも視聴できる。
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大外からよく追い込んだが4着だったオグリマックイーン(7)
■名古屋で2勝、笠松でも期待できる走り
オグリマックイーンの主戦は細川智史騎手。笠松初戦は3番人気で、好ダッシュから4番手をキープ。8頭立てで、6頭はJRAからの移籍組。レース展開は、リーディングを争う渡辺竜也騎手と筒井勇介騎手の騎乗馬が一騎打ち。オグリマックイーンは4コーナーからいい脚で追撃し、勝ったJRA1勝馬から0秒7差。3着馬とはクビ差で馬券圏内を逃したが、特別戦で次走に期待を持てる走りを見せてくれた。
馬体重はマイナス3キロだったが、名古屋から初めての輸送競馬で弥富出発時より10キロ減。イレ込んで消耗が激しかったという。本馬場入場後、ゲート裏での輪乗りでは、名鉄電車が後ろを通った際に驚き、騎手が振り落とされそうになったとか。輸送と笠松の馬場に慣れることが課題だが、陣営は次走も笠松に遠征させるそうだ(オーナーⅩ投稿より)。昭和の時代、名古屋からの笠松初遠征では珍事もあった。「3コーナーに向かっていた1番人気馬が迫ってきた電車の姿に驚いて、レース中に止まってしまった」と聞いたことがある。名古屋の有力馬の笠松デビュー戦は物見をしたりして凡走もあるが、意欲の初出張で4着ならまずまずだ。
■先行争い激しく、オグリマックイーンと細川騎手も砂まみれ
ゴール近くで見届けて1コーナー奥の装鞍所前にダッシュすると、戦いを終えた各馬を厩舎スタッフが出迎えていた。「マックイーンどうでした、一言お願いします」と細川騎手に聞くと「こんにちは」と本人は笑いだしてしまった。よく見ると、ヘルメットを脱いだ顔は砂まみれで驚かされた。「すごい砂だね」。凍結防止剤の散布もあって砂に粘りが出て、時計がかかる馬場になり、力勝負の激戦を物語っていた。1400メートル戦は、4コーナー奥のポケットから最初の1コーナーまでが直線337メートルと長く、先陣争いが激化する。高低差1.92メートルで向正面からの下り坂が勝負どころ。小回りでのポジション争いや最後の直線での攻防は激しく、お互い火花を散らす「砂上の格闘技」でもある。
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オグリマックイーンに騎乗した細川智史騎手を迎える厩舎スタッフ
いったん騎手控室に戻って顔もきれいになった細川騎手。「マックイーン、状態はすごくいいんですけど。先行争いが激しいんで、砂をかぶってひるんじゃって」とやはり初馬場に手こずった様子。「名古屋ではゆったりした感じでいつも前へ行っているんですけど。笠松では、先行馬も多くやっぱりいい所は取れないです」。位置取りについて「4番手でも良かったんですけど、そんなに体力があるわけでもないし内へ入れた」と中団をキープし、最後の直線では大外から追撃した。
■「平場だと勝ち負けできるんで、また来ます」
次走については「それでも平場だと勝ち負けできるんで、また来ます。もう笠松に乗りに来る馬になったんで、毎回そうらしいんで」と地元のオグリファンにとってはうれしい言葉を聞くことができた。最後にもう一度「平場なら勝ち負け」を強調。上がり3Fのタイムは上位3頭よりも速く、この日の走りに手応え十分の様子だった。
応援するファンもオグリキャップ聖地での、ひ孫の初勝利を待っており、早ければ次走にも決めてほしいところだ。3月7日4RのC5(1400メートル)に出走登録があり、クラスが下がってまずは笠松2走目で「聖地初Ⅴ」を目指す。
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名古屋競馬で2勝目を挙げたオグリマックイーン
■名古屋での2勝目はハナ差勝ち、キャップ譲りの勝負強さ
オグリマックイーンの戦歴は、昨年9月デビューした門別では1200メートル以下で2着が最高だった。移籍した名古屋では細川騎手とのコンビで2戦目、6番人気で3馬身差の初勝利。3連単55万馬券に絡んだ。今年1月の2勝目は1番人気で粘り込んで際どくハナ差勝ち。キャップ譲りの勝負強さも発揮した。
細川騎手は2020年デビューの25歳。深沢杏花騎手と同期だ。1年目にはヤングジョッキーズシリーズのファイナルで見事3位。重賞はメルト(角田輝也厩舎)で名古屋記念を制覇するなど4勝。JRA勢が掲示板を独占した2月24日の「かきつばた記念」では、メルトで7着。笠松のサヴァ(田口輝彦厩舎)は8着だった。
■メジロマックイーンの天皇賞、ライブ観戦で馬券的中
1990年、オグリキャップとメジロマックイーンはともに現役で活躍していた。キャップは武豊騎手の手綱で安田記念と有馬記念を制覇。マックイーンは菊花賞を内田浩一騎手で制覇。2着ホワイトストーン、3着メジロライアンと共に臨んだ91年天皇賞(春)では武豊騎手が騎乗し、再び2頭を下して圧勝。2馬身半差の2着に7番人気ミスターアダムスが突っ込んだ。京都でオグリキャップファンと一緒にライブ観戦していた。単勝170円、枠連は1610円だったが、遠征競馬で珍しく馬券が当たった。
芦毛伝説はキャップからマックイーンに継承され、日本最強ステイヤーとして名優ぶりを発揮した。マックイーンは有馬記念を回避したため、2頭の直接対決は実現しなかった。もしマックイーンが出走していたら、キャップとの「芦毛ワンツー」があったかも。
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3年前には、笠松でオグリキャップの孫娘レディアイコが出走した
■孫娘レディアイコはシンデレラグレイ賞出走前に引退
笠松では3年前、オグリキャップの孫娘レディアイコが人気を集めた。JRA、岩手を経て笠松に転入。2戦しただけで調教中のけがで引退し、未勝利に終わった。後藤佑耶調教師は芦毛・白毛馬限定の「ウマ娘シンデレラグレイ賞」に出走させられず「レディアイコがいたら良かったのですが」と残念がった。
繁殖入りも期待されていたが、ラストランとなったレースは馬体重395キロと体が小さく、佐藤牧場では血統の継承を断念。現在は北海道・ヴェルサイユリゾートファームのアイドルホースとして、のんびりと暮らしている。
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4年前、初勝利を水沢で飾ったミンナノヒーローと地方競馬通算3500勝を達成した村上忍騎手
長男のストリートキャップは中央で3勝を挙げ、2022年9月から船橋競馬場(千葉)で誘導馬を務め、ファンの人気を集めている。4年前、次男のミンナノヒーローはJRA未出走のまま岩手転入。「一口馬主」として水沢での初勝利ゴールを現地観戦できた。騎乗した村上忍騎手は地方競馬通算3500勝も飾り、二重の喜びとなった。ミンナノヒーローは3連勝でJRA復帰条件を満たしたが、盛岡でのレース中に故障し天国へと旅立った。応援していた愛馬を失ったシヨックは大きく、その後5カ月間は馬券が買えなかった。
■「血統を残して、笠松に来てくれてうれしい」
今後、オグリマックイーンが笠松専属で出走するなら、聖地巡礼ファンからも新たなアイドルホースとして熱い視線を浴びることになる。3年連続で開催された芦毛・白毛馬限定のC級特別「ウマ娘シンデレラグレイ賞」の出走条件は「笠松所属馬限定」である。現在C級のオグリマックイーンだが、名古屋所属馬であり、やはり出走できないのか。
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昨年のウマ娘シンデレラグレイ賞をサルジュターグで制覇した細川騎手
笠松の前回シリーズ(4日間)、C級のレースに出走した笠松の芦毛馬は5頭のみだった(前々回は8頭)。休んでいる馬もいるだろうが、芦毛馬の数はやはり少ない。現状もし10頭確保が難しいようなら、シンデレラグレイ賞を「東海所属馬限定」に門戸を広げてもいいのでは。ファンの間ではオグリマックイーンの出走を期待する声もあり、実現すれば盛り上がることだろう。主戦の細川騎手は昨年のウマ娘シンデレラグレイ賞をサルジュターグで勝っており、連覇も期待できる。
ファンたちは「こういう血統を残して令和に見られるなんて、関係者の方々に頭が下がる」「笠松に来てくれて本当にうれしくて感動してます」と熱く応援。笠松初戦を元気に走り終えると「無事に完走できて良かった。ゆっくり休んで次走期待してます」「オグマックのレース、お客さんいっぱい居て人気なんだなあと。また頑張れ」といった声が相次いだ。
オグリキャップは引退から34年余り。「優駿」特別企画で「未来に語り継ぎたい名馬」の3位に連続ランクインするなど、時を超えて輝きを増し続けている。その血脈を受け継ぎ、バトンをつないでいくことは「聖地・笠松」にとって使命でもあり、魅力を発信を続けることが大切だ。
オグリキャップは1985年3月27日生まれ。個人的には同年の10日前が結婚記念日でもあり、その後キャップの誕生日を知って「おっ近いな」とうれしく感じたものだ。笠松発のサクセスストーリー。「オグリの夢」に魅せられた全国の多くのファンと新たな夢を共有。笠松競馬場にファンを呼び込めるスターホースとして応援していきたい。
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オグリキャップ生誕40周年コラボのユニホーム姿でトークショーに出演した元FC岐阜主将の庄司悦大さん
■FC岐阜ユニホーム、「勝負服」としてオグリキャップとコラボ
サッカーJ3所属のFC岐阜は、今シーズンのユニホーム(アウェー用)でオグリキャップ生誕40周年コラボを実現させた。有馬記念を2度制覇した笠松出身馬の闘魂を注入した「勝負服」の勇姿でJ2復帰を目指している。
笠松競馬場内の特設ステージでは、FC岐阜のMFとして主将を務め、昨季限りで現役を引退した庄司悦大さんと、FC岐阜応援隊長でもあるSKE48の太田彩夏さんのトークショー&予想会が開かれた。FC岐阜と笠松競馬応援番組「笠馬Ⅹ(カサマックス)」のコラボイベントとしても収録された。
庄司さんはオグリキャップのコラボユニホーム姿で登場。FC岐阜は今季開幕戦(対FC大阪)、終了間際の後半50分に同点ゴールで勝ち点1。「負けるよりはすごくいい」とオグリキャップの勝負根性が乗り移ったような、最後まで諦めないゴールへの執念、走りをたたえた。
アヤメロの愛称で人気の太田さんは「サポーターと一緒に応援するなら、ゴール裏がお薦め。コーナーキックでは、みんなと一緒にタオルを回したりして」と熱血トーク。今季もFC岐阜の躍進を盛り上げていく。
2人は「頂点へ駆け上がるFC岐阜開幕戦」の冠協賛レースと重賞「ブルーリボンマイル」の予想会も行った。トークショーの様子や予想結果などは3月5日から「笠馬Ⅹ(カサマックス)」で視聴できる。
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最終レース、塚本幸典さん騎乗の誘導馬エクスペルテの雄姿を撮影するファンたち
■誘導馬エクスペルテと塚本さんにも熱い視線
オグリマックイーンが登場した最終レースでは、3月いっぱいでの引退が決まった誘導馬2頭のうちエクスペルテ(愛称・ぺ君)と誘導馬騎手の塚本幸典さんが1日の務めを果たした。ファンたちも熱い視線で雄姿を撮影しながら、感謝の声援を送った。
4月からは誘導馬不在の内馬場パドックとなり、優しく先導して見守ってくれる「守護神」の姿が消えることになる。入れ込み癖のある馬は、よりテンションが高くなり、今まで以上に装鞍所騎乗の出走馬が増えそうでもある。馬券を買うファンにとってパドックは、レース直前の馬体や動きを最終チェックする重要ポイント。出走馬にとっては、誘導馬が装鞍所からの長距離ウオーク後も内馬場パドックを一緒に周回してくれる安心感があった。ぺ君とウイニーとの別れは寂しいし、4月以降、レース直前の安全確保では課題が多くなりそうだ。対策を万全にして、毎日のレースが無事に開催されることを願うばかりである。
☆ファンの声を募集
競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見などをお寄せください。笠松競馬からスターホースが出現することを願って、ファン目線で盛り上げていきます。
(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆「オグリの里3熱狂編」も好評発売中
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