
NARグランプリ2024の最優秀勝率騎手賞に選ばれた渡辺竜也騎手
1日5勝、6勝の固め打ちで大ブレーク。ターゲットにしていた全国表彰のタイトルをゲットした。
笠松競馬の渡辺竜也騎手(24)が昨年、年間勝率35.3%で地方競馬トップの成績を挙げ、NARグランプリ2024の「最優秀勝率騎手賞」に東海勢で初めて選ばれた。「特別表彰馬」には地方競馬の発展に功績があったラブミーチャンが選出された。
■JRA1勝を含め年間246勝、ただ一人の3割超え
渡辺騎手はJRAでの1勝を含め年間246勝(696戦)と驚異的なペースで白星を量産。2位は高知・宮川実騎手の29.8%。渡辺騎手は全国ただ一人の3割超え。ジョッキー表彰の輝かしい1冠を奪取した。

■2024年・全国地方騎手の勝率ランキング

ジョッキーの全国タイトルには「勝利回数」「賞金収得」「勝率」の3部門がある。「勝利回数」は昨年末に引退した森泰斗騎手(船橋)、「賞金収得」は笹川翼騎手(大井)が獲得。騎乗回数が多く、賞金も高い南関東勢が選出された。「勝率」は騎乗数がやや少ない西日本地区のジョッキーにもチャンスがあり、35%超えのハイアベレージで渡辺騎手が選ばれた。

■「目指してきた最高勝率、一番うれしい」
最優秀勝率騎手賞に輝いた渡辺騎手に、喜びの声や2025年の目標などを聞いた(この1年間のコメントも含む)。
―おめでとう、素晴らしいですね。NARタイトル獲得の率直な気持ちは。
「ありがとうございます。全国1位になることはいいですね。昨年は最高勝率を取ろうと1年間頑張ってきたので、一番うれしいです。目標にしてきた賞で、モチベーションを高めて一戦一戦を大切に騎乗してきました。ベストフェアプレイ賞の表彰式(昨年)には地元重賞もあって行けませんでしたが、今年は出席します(2月3日・東京)。翌日、川崎で佐々木竹見カップ(ジョッキーズGP)もあるので連泊し、優勝目指して頑張りたいです」
「最優秀新人騎手賞に選ばれて(6年前)、NARグランプリの表彰式へ行ってすごく感動しましたし、またあの舞台に立ちたいと目標にしてきました」
■「重賞の大きいところは勝ちたい」
―昨年は笠松グランプリなど重賞5勝でしたね。自厩舎の馬で2勝しましたが、笠松の馬で重賞をもっと勝ってほしい。
「もちろん地元のどんな厩舎も頑張っています。今年の目標はまだ立てていないですが、重賞の大きいところは勝ちたいですね」

―23年の笠松年間最多勝に続いて、24年は「次のターゲットとして全国最高勝率を狙ったら」と提案したが、すぐに実行してくれて、うれしいです。
「勝率トップは取れる時に取っておきたいから。『オグリの里』ではいろいろと書いてもらっているから、親が喜んでましたよ。見ているらしいので」
―勝率1位のタイトルは東海勢で初めてで、岡部誠騎手も取っていない。
「すごいですね、東海で初めては。1回取ったんで、また意識したいですけど、そんなに簡単じゃないですもんね」
―山口勲騎手(佐賀)や赤岡修次騎手(高知)は続けて取っているよ。その若さだから。まだ20代前半で最年少記録にもなった。
「いやいやレジェンドと比べたら。そんな立派なジョッキーじゃないですから。3月には25歳になりますが」
■攻め馬は30頭ほどで「大変ですよ」
―アタック地方競馬(グリーンチャンネル)でも話されていましたが、名古屋への遠征だと乗る馬にはそれほど恵まれないから、騎乗をセーブしていましたね。勝率が下がるから。
「ええ、名古屋では下がっちゃうんでね(22、23年の勝率は10%以下)。勝率を意識すると、断らざるをえなかった。それでも結果を出せよと言われますからね」
―毎朝30頭ほど乗られている笠松での調教は大変ですよね。
「それは大変ですよ。次の日、えらいですよ、まじで。いま名古屋に行っている騎手はすごいです。俺には絶対無理。夜中の12時から朝8時まで攻め馬をやって、レースで騎乗して。名古屋からも依頼はもらうんですが、誰か俺の疲労をしょってくれるならいいですけど。そういうわけにはいかないから」

■「危険な仕事だと、もっと知ってほしい」
―昨年は、けがもなく1年フルに乗れましたね。ジョッキーに、けがは付きものだけど。騎手は調教とかでも結構けがをしますね。
「そう、今年もけがはしたくないですし、みんな気を付けていますが。この前も園田で事故がありましたし、危ないですからね」
1月13日、園田で調教中の競走馬3頭が衝突する事故があり、騎乗していた松本幸祐騎手(43)が落馬し亡くなった。
―ジョッキーの皆さんはいつも体を張って命懸けの仕事で、すごい人たち。みんな口には出さないが、内心は尊敬していますよ。
「記者さんたちに思ってもらうのはいいですけど、ファンの皆さんにも、危険な仕事だともっと知ってもらいたいですよ」
―昨年、高知でもレース中の落馬事故で亡くなったジョッキーがいる。25歳だった塚本雄大騎手で、名古屋の塚本征吾騎手の兄である。
「(高知の落馬事故では)大けがで下半身不随になった人もいる。そうなってから『かわいそうだ』とか言うのは遅いじゃないですか。最初から危険だと分かっているのだから、そういうのもっと伝えてほしいです」
―笠松でも期間限定騎乗で頑張っていた妹尾将充騎手で、車いす生活となって昨秋引退した。アンカツさんとか岡部騎手は、調教からセーブして状態が変な馬には乗らなかったり、ゲートでおかしな馬は出走を取り消したりする。
「人それぞれですよね。危ない馬には乗らないに越したことはないです。僕はあまり断らないですが。うちの先生には、結構大事にしてもらっているので。危ない馬とかは厩舎に入れなかったりして、しっかり管理してもらっているので感謝ですね。先生あっての僕なんで」

■馬場改修の2カ月間「遠征でどこかに行きたい」
―強力なタッグチームだね。今年の笠松競馬場は6月から2カ月間、馬場改修に入るが休みの間はどうしますか。
「遠征でどこかに行きたいなと。X(旧ツイッター)でも、いっぱい書いてもらっているので、そのつもりではいます。昨年は水沢でのエキストラ騎乗でも勝ちました」
ここで翌日の姫路遠征に向けて馬具などを総点検。重賞の兵庫クイーンセレクションにプチプラージュ(金沢シンデレラカップ優勝馬)で挑戦(結果は3着)。「ヘルメット入れた」「鞍入れた」などと1点ずつ確認しながら準備万端。忘れ物がないようにチェックを終えて、もう帰るのかと思ったら「お待たせしました」と。インタビューに集中して答えてもらえることになった。
■勝利量産「求められるものが大きくなりますよ」
昨年は勝率35.3%というすごい数字をたたき出した。22年の勝率は20%で10位だったが、23年は赤岡修次騎手(高知)が38.5%で、吉村智洋騎手(兵庫)に続いて渡辺騎手は26.5%で3位と躍進した。そして24年、一気に8.8%も勝率をアップさせ、文句なしの高率で、全国の名手たちの数字を上回り、頂点を極めた。
―勝率は35.3%でしたね。
「でも年末最後の開催でだいぶん数字を落としちゃったんで(4日間で5勝止まり)」
―あれだけ勝っていたから、逆に目立っちゃったね。
「前回(5勝)や今回の開催、勝ち星的には普通なんですけど。1年間、たくさん勝たせてもらった分、求められるものが大きくなりますよ」
―1日5勝、6勝とか当たり前のように勝っちゃったりしていた。渡辺騎手を応援して馬券を買っている人も多いから。
「(アンカツさん超え、笠松新記録の)8連勝もあったし、最多勝利も更新させてもらったし、うまく乗れましたね」

■「1個1個レースに集中し、見えてきたものを目標にしたい」
―昨年は記録ラッシュだったね。
「そうなった分、今年の目標に困っているというか、バーンと掲げられるものでない。普段通り1個1個、目の前のレースに集中してつなげていって、見えてきたものを目標にしたいなと思っています。昨年そうだったように『勝率が高いよ』という話から、目指し始めたので」
―最初はそんなに意識せず「全部勝ちたいから、結果として付いてくるものだ」と。
「8連勝できたりして勝率もアップしたし、個人的には意識していたんでしょうね。年末になるにつれて『最高勝率』が現実化してきたわけで」
■「今年は勝率とか気にせずに」
―今年は笠松で馬場改修があって乗り鞍は減るが、勝率は野球の打率と一緒だから、2年連続トップを狙ってほしい。
「でもその間、短期騎乗で新天地に行くから厳しくなる。今年は勝率とか気にせずにいきたいです。こっちで攻め馬ばかりやっているより、どこかで学ぶこともあり、見えてくるものもあるかもしれない」
―オグリの里の希望としては、全国重賞を地元の馬で勝ってもらいというのはある。
「僕、笠松での全国重賞では他場の馬に乗っていますよね」
―南関東や北海道とかね。笠松グランプリでは「地元の馬に乗れよ」と思ったファンも多いと思うが。
「確かに分かるんですけど、勝ち負けとなると厳しいですよね、やっぱり」
―地元馬は後方集団にしか来ていないから、どう乗っても,誰が乗っても、結果は同じかも」
「いろいろな先生たちが、有力な中央の未勝利馬とか連れて来てくださっているが、他場の馬もなかなか強いですからね。南関、北海道や園田の馬も笠松でよく勝つんでね」

■「馬の力関係は、賞金の差もありますよ」
―名古屋の馬にも重賞Ⅴをよく持っていかれているね。
「確かに名古屋は強いです。レベル高いですよね。なんだかんだ言っても馬の力関係では、賞金の差もありますよ」
―それは4年ほど前の不祥事の後遺症もあると思う。あれから馬が減って、よそへ行った有力馬が帰ってこない。
「それはもちろんあるでしょうね。でもねえ、まだ賞金が悪いですよ。(オーナーさんは)平場の一番下のクラスでも、やっぱり賞金が高い方に馬を入れますもの。馬のレベルが同じなのに、最低賞金が違ってくるから」
■現状の賞金レベルは25年前の半分ぐらい
1998年、笠松勢がまだ強かった頃。C1特別の1着賞金は145万円だったが、2025年は60万円と半分以下。オープンは345万円だったが、現行は200万円だ。2013年頃までのどん底の時代から改善されつつあるが、90年代当時と比べれば、低水準といえる。
―笠松の現状の賞金のレベルはは25年ほど前の半分ぐらいですよ。
「僕がデビューした年は、C級の最低賞金は20万円でした。16万円ほどからちょっと上がってきた時にデビューしました」
―でもきょうのようなJRA交流戦(1着賞金450万円)だと賞金もいいから、力が入るよね。
「まあ力が入らないというとうそになりますが、やることは変わらないです。中央の交流戦ぐらいなら気にしないです。馬のレベルもそんなに高くないし、迫力あるスピード感あるレースではない。きょう笠松のコスモグリッターが3着に来ているようにね。中央1勝クラスの交流戦ならもっと強い馬が来て迫力ありますが」

■JRA初勝利で「かわいい後輩」の田口騎手がプラカード持ち
―昨年11月、京都で8番人気のメイプルタピットに騎乗し、渡辺騎手がJRA初勝利を飾った時、田口貫太騎手がお返しのプラカード持ちでしたね。田口騎手が笠松でデビュー初勝利を挙げた時には、渡辺騎手がプラカードを持っていましたからね。覚えていますか。
「(田口輝彦先生の長男でもあり)よく知っているかわいい後輩なんで持ってあげようかと。ネットでも言われて感慨深いですね。最初は坂井瑠星騎手が持っていて、田口騎手と交代しました。うれしいですよね。中央の騎手も気さくに声を掛けてくれました」

―初勝利セレモニーでは笠松で200勝以上勝っていることが紹介され、中央初勝利だがすごいジョッキーだとファンらを驚かせた。
「中央ではまだ勝っていなかったんですねと、いろいろな人に言われました。今年も中央のレースに行きたいですね。この前の笠松・メイプルギンとのコンビで2月に参戦する可能性もありますが、まだ分かりません。またチャンスがあれば挑戦して頑張りたいです」
JRAのレースにはドンドン行けばいい。かつてのアンカツさんのパターンで、JRA認定勝ちの笠松馬と参戦すれば、中央馬にも乗れる。この日も一緒のレースで乗った貫太君とのワンツーも期待したい。笠松で勝ちまくっている貫太君には『ずっといたら、リーディングになれるよ』と冗談ぽく聞いたら『笠松には絶対王者がいらっしゃいますから』と渡辺騎手のことを尊敬していた。

■全国レベルのジョッキー戦で上位期待
「いい馬にたくさん乗せてもらっているので、厩舎を含めて、結果で返せればと思っています」と語る渡辺騎手。
今年は夏場に笠松競馬の馬場改修があることから、200勝超えは難しくなる。新たなターゲットとしては、全国レベルのジョッキー戦で上位の成績を挙げることも視野に入ってくる。地方、中央で年間勝利数上位の名手が集結する佐々木竹見カップでは「優勝を目指したい」と頼もしい言葉もあった。これまで2度挑んで総合7位と14位だったが、今年は一発期待したい。
地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップも楽しみだ。優勝者は札幌でのワールドオールスタージョッキーズ(WASJ、旧WSJS)に出場できる。これまで川原正一騎手が笠松時代の1997年に総合優勝。2006年には浜口楠彦騎手が勝利を飾っている。地方騎手にとっては夢の舞台だが、22年に出場した岡部誠騎手のように、渡辺騎手にもいつかチャンスが巡ってくるのでは。
■筒井騎手とのリーディング争いも注目
1月開催を終えてリーディング争いは筒井勇介騎手が13勝でトップ。渡辺騎手は11勝で2位。「筒井さんが復帰されたことは刺激になるし、素直にうれしく思っています。負けたくないし、結果を残していきたい」と意欲。一方「もう一度リーディングに返り咲きたい」という筒井騎手。2人の首位争いは今年の笠松競馬を盛り上げてくれそうだ。

■地方歴代最強牝馬ラブミーチャン、年度代表馬に2度
特別表彰馬のラブミーチャンは「笠松の快速娘」と呼ばれ、地方競馬が経営難の時代(09~13年)に全国の競馬場を駆け回り、先頭に立って笠松の名をアピールした。GⅠ級の全日本2歳優駿(川崎)を制覇するなど、中央交流のダートグレード競走を5勝。NAR年度代表馬に2度選ばれ、地方競馬では歴代最強牝馬といえる活躍を見せた。地方競馬の発展に顕著な功績が認められた。
ラブミーチャンは笠松競馬場でデビューし、史上初の2歳で2009年NARグランプリ年度代表馬に輝き、その後も短距離路線で活躍を続けた。選考委員からは「地方競馬が厳しい状況の中、ファン・関係者に明るい話題を提供してくれた」との声が多数上がった。
■特別表彰馬、笠松では5頭目の栄誉
笠松所属馬では、オグリキャップが競走馬では初めて特別功労賞を受賞(1990年)。特別表彰馬ではホワイトナルビー(96年)、ワカオライデン(2007年)、ライデンリーダー(14年)、オグリローマン(15年)に続いてラブミーチャンが5頭目の栄誉となった。
ラブミーチャンは昨年8月31日に天国へと旅立った。生まれ故郷の北海道・谷岡牧場にはお墓もできた。愛馬の活躍をたたえ、馬主だったDr.コパさんは全日本2歳優駿を制覇したレースでの蹄鉄も用意し、笠松競馬場内にラブミーチャンの銅像を建てたい意向を示されている。
☆ファンの声を募集
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(筆者・ハヤヒデ)電子メール ogurinosato38hayahide@gmail.com までお願いします。
☆「オグリの里3熱狂編」も好評発売中

林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、238ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、小栗孝一商店、酒の浪漫亭、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞情報センター出版室などで発売。