カズピレウスに騎乗し、笠松で今年100勝目を達成した渡辺竜也騎手

 笠松競馬の所属ジョッキーが奮起し、珍しく「1日10連勝」を飾った。このところ笠松で勝ち星を伸ばし活躍が目立っていた名古屋勢を圧倒し、地元勢の意地を見せてくれた。

 梅雨入り真っただ中、1年の折り返し地点を過ぎて、地元の人馬が躍動して「1着ゴール」を連発。スタンドには「推し騎手」「推し馬」の横断幕も増えつつあり、全力応援で生観戦に訪れた笠松ファンたちを喜ばせた。やはり、地元の人馬が勝ってくれると、ゴール前はいつも以上に盛り上がるものだ。

好きな騎手らを応援する横断幕。ゴール前のスタンドに掲示され、「パワー」を送っている

 ■「パーフェクト」達成は2年ぶり

 笠松競馬サマーカップシリーズ初日の2日、今年もリーディングを独走している渡辺竜也騎手は、自厩舎の馬ばかりで4勝を挙げて100勝ラインをあっさり突破。3日目のサマーカップでは、今年初めての地元重賞Vを飾った。

 10連勝の笠松所属ジョッキーは、一昨年8月15日の12連勝以来、約2年ぶりに全レース制覇の「パーフェクト」を達成した(期間限定騎乗を除く)。4勝の渡辺騎手のほか、ベテラン勢が発奮。藤原幹生騎手が2勝、馬渕繁治、松本剛志騎手は1勝。深沢杏花、明星晴大騎手も勝利を挙げた。2着にも笠松勢が8回と健闘した。

 ■前開催は名古屋のジョッキーに負け越し

 6月後半のぎふ清流カップシリーズでは、笠松の騎手が18勝に対して、名古屋の騎手が26勝と大きく上回った。岡部誠騎手や塚本征吾騎手は、今年に入って笠松での騎乗数も勝利数も増えており、リーディング2位と3位で存在感を示している。一方で、同じ東海公営とはいえ、他場・名古屋のジョッキーに多くの勝ち鞍を奪われて負け越した笠松勢。熱烈な地元ファンは歯がゆい思いもしてきた。 

 当欄でも「笠松の騎手より名古屋の騎手の方が多く勝っている。いつか名古屋勢の『全勝』もあるのか」と、地元勢がやや押され気味の傾向を懸念。競走馬のレベルでも「名古屋>笠松」の現状を憂い、地元勢の奮起を期待したが、7月初日に早速、最高の結果を残してくれた。「たまたまですよ」ということだろうが、「やればできる」と実感できた。

藤原幹生騎手の騎乗で3連勝を飾った重賞馬のスタンレー

 ■「笠松のジョッキーが勝ち続けている」

 笠松所属アイドルホースのハルオーブも登場したシリーズ初日。重馬場の中、終盤のレースを迎えると「きょうは笠松のジョッキーが勝ち続けている」とファンの間でも注目を集め始めた。

 渡辺騎手はオープニングから連勝し、8Rではカズピレウス(牡4歳、笹野博司厩舎)に騎乗。3番手から差し切りVを決めて100勝到達。メイン「おりひめ特別」も制して101勝目を飾った。

 ベテラン勢も発奮。藤原幹生騎手がスタンレーなどで2勝、馬渕騎手と松本剛志騎手がそれぞれ1勝と健在ぶりを示した。スタンレーは後藤正義厩舎所属で生え抜きの重賞馬(名古屋・中京ペガスターC)。中央の新潟2歳Sにも挑戦したほどの期待馬だったが、けがで出世が遅れた。近走は3連勝で復調気配。4歳にはなったが、古馬重賞戦線でも活躍できる素質を秘めている。

人気薄の馬での馬券圏内突入も目立つ明星晴大騎手

 ■ルーキー明星晴大騎手は8番人気Ⅴで100万馬券

 若手ではルーキーの明星騎手が8番人気で勝利をゲット。馬単14万、3連単107万馬券の高配当を呼んだ。この日は3番手までにつけた先行馬が9勝と強かったが、深沢杏花騎手は3コーナー最後方から豪快に差し切り、6馬身差圧勝を決めた。向山牧、東川慎、長江慶悟の3騎手は2着2回ずつ、森島貴之騎手は3着3回で馬券によく絡んだ。

 笠松と名古屋はほぼ隔週でレースが行われているが、名古屋のジョッキーは、地元・弥富と笠松でともに騎乗するケースも多い。3年前には岡部騎手が笠松リーディングを奪う活躍を見せた。通算5000勝も笠松で達成しており、厩舎サイドの信頼は厚く、名古屋の馬だけでなく、笠松所属の有力馬に騎乗することも多い。

 ■騎乗依頼は「勝つための究極の選択」

 馬主・調教師サイドから見れば、騎乗依頼は笠松、名古屋の全ジョッキーを対象にできる。「勝つための究極の選択」として、結果的に名古屋のジョッキーへの指名も増えている。

 笠松のジョッキー数は、一連の不祥事後に9人に半減。その後、新人2人と移籍1人で計3人増えたが、まだ12人。現状では「負傷療養中」での欠場も目立ち、全員そろうことは少ない。

 慢性的なジョッキー不足をすぐには解消できないが、毎年1人でも2人でも増やして、地方競馬の適正数とされる「20人」へと近づけていきたい。名古屋勢の騎乗が増えているのは、乗り役の絶対数が足りていない厳しい状況での「頼もしい助っ人」でもある。笠松・名古屋の枠を超えて良きジョッキー仲間として、腕を磨き合っている印象だ。

今年、笠松での活躍が目立つ宮下瞳騎手。5月には人気馬のハルオーブにも騎乗した

 ■宮下騎手、笠松でも騎乗増え勝利積み重ねる

 今年は地方通算1200勝超えの宮下瞳騎手も笠松で多く騎乗。6月までに15勝を飾っており、コース巧者で華麗な逃げ切りを決めるレースも目立つ。ハルオーブ騎乗では5着だったが、7月開催でも好騎乗を見せており、4日には逃げ切り勝ちや大外から豪快な差し切りもあり、騎乗依頼が多い藤田正治厩舎の管理馬で2勝を挙げた。昨年10月にはオマタセシマシタでも逃げ切りVを飾り、斉藤慎二オーナーを喜ばせた。
 
 笠松では今年160戦以上騎乗しており、勝利を18に伸ばした。女性ジョッキーとして2キロ減も生かした好騎乗で活躍。「100勝以下の減量騎手」は卒業した深沢騎手らに良いお手本を示している。

 今後も笠松、名古屋のジョッキーがお互い競い合いながら、攻め馬から強い馬を育て上げ、東海公営のレベルアップにつなげていきたい。

■渡辺騎手、勝率は32%台で全国トップ快走

 「笠松の若大将」渡辺騎手はまだ24歳だが、全国レベルの名手へと成長。序盤のレースで連勝があると、1日4~5勝の固め打ちを得意としている。今年2月には騎乗機会8連勝の快挙も達成。落馬負傷による療養で、200勝には届かなかったが(183勝)、今年はその大台をクリアしそうな勢いだ。全国リーディングも6位(昨年8位)にアップ。勝率は32%台で全国トップを快走。NARグランプリ「最優秀勝率騎手賞」のタイトルも狙える好位をキープしている。

 前開催は騎乗数が少なめで4勝どまりだったが、今開催は再び勝ちまくって「夏男」のパワー全開となった。

サマーカップを制覇したエイシンヌウシペツと渡辺竜也騎手。笠松勢の地元重賞勝ちは今年初めて

■エイシンヌウシペツがサマーカップ制覇、笠松勢の重賞連敗ストップ

 第46回サマーカップ(SPⅡ、1400メートル)では、渡辺騎手が手綱を取った5番人気・エイシンヌウシペツ(牝5歳、笹野博司厩舎)が2番手から差し切って、重賞初制覇。笠松所属馬が地元重賞を勝つのは今年初めてで、連敗記録を「11」でストップさせた。良馬場で1分27秒1の好タイムだった。
 
 レースは、笠松重賞2勝でコース適性抜群の名古屋・セイルオンセイラーが予想通り逃げて、エイシンヌウシペツがピタリとマーク。4コーナーで並びかけ、一騎打ちに持ち込むとラストの切れ味で競り落とし、半馬身差で1着ゴール。セイルオンセイラーが2着、レッドブロンクスが3着。1番人気のインペリシャブルは6着に終わった。過去10回では兵庫勢が7勝と強かったが、今年から出走条件が「北陸・東海所属馬」となり、金沢、名古屋から4頭ずつが参戦した。

■会心の勝利「勝負根性があって競馬が上手」

勝利騎手インタビューで渡辺騎手は「馬の状態がすごく良かったので、相手は強かったけど自信を持って乗りました」。レース展開は「想定よりも1列前からの競馬で、馬にとっては忙しかったが、最後までよく辛抱してくれた。勝負根性があって競馬が上手でいい馬だなあと」。コンビでの重賞初制覇で「タイトルを取ることができ、この馬と一緒に大きいところを目指して頑張りたい」と会心の勝利の味をかみしめた。

重賞勝ちの喜びに浸る渡辺竜也騎手

 渡辺騎手自身、初日から4勝、4勝、3勝で計11勝と白星量産モードに突入。「有力馬ばかりに乗せていただき、ファンと関係者の皆さんの期待に応えられるよう頑張ります。熱中症対策に気を付けて応援していただきたいです」と呼び掛け、色紙にもサイン。「手応えが良かったし、人気馬相手に真っ向勝負で勝つことができ、強い馬だなあと」とも。「夏は牝馬」というが、笠松からも頼もしい一頭が出現した。

 ウイナーズサークルへは、節目の勝利や新人騎手らの紹介セレモニーでよく登場する渡辺騎手だが、笠松での重賞勝ちは昨年10月のワラシベチョウジャ以来で「お久しぶり」。お願いした「ビクトリーポーズ」は控えめだったが、これを機に笠松でもバンバン重賞を勝っていきたい。

■笹野調教師「しっかり乗り込んでチャンスだと」

 エイシンヌウシペツは前走・金沢「お松の方賞」では東海ダービー馬・セブンカラーズに続く2着で、自在脚が魅力。笹野博司調教師も「金沢から帰ってきて疲れが出ていましたが、1カ月近くしっかり乗り込んで仕上がり具合がすごく良かったです。前走は後ろからの競馬でしたが、地元の軽い馬場の方が良くてチャンスだなあと。距離は1600までぐらいですね」と所属騎手との重賞Vを喜んでいた。

サマーカップ優勝馬のエイシンヌウシペツと喜びの関係者

■地元ファンも「初日全勝の勢いで重賞も勝った」

地元ファンも「笠松の騎手が久々に重賞を勝ったのはすごくいいこと。ここずっと、他場の騎手らに持っていかれていたから、笠松ファンとしてはうれしいです」と大喜び。「初日も笠松のジョッキーが全勝だったし、その勢いで重賞も勝ったようなもの。渡辺騎手は100勝超えで好調だし、さすがは笠松のエース」とたたえた。他の厩舎関係者にとっても、大いに刺激を受ける価値ある1勝となった。

東川慎騎手騎乗のヒナアラレで地方競馬通算1000勝を達成した後藤正義調教師(右から2人目、笠松競馬提供)

■後藤正義調教師は地方通算1000勝を達成

 この日の岐阜地方の最高気温は34.8度で猛暑日寸前。暑熱対策では当面、パドック入場時間を遅らせ、人馬の負担を軽減。誘導馬は早めに装鞍所に戻っているが、梅雨明け前からこの暑さで、人馬ともに体調管理には苦労することだろう。
 
 8R「夏の大三角特別」では、東川慎騎手騎乗のヒナアラレ(牝5歳)が逃げ切り勝ちを収め、管理する後藤正義調教師(44)が地方競馬通算1000勝を達成した。通算6972戦目での大台到達。初出走の2009年4月にアグネスイカロスで初勝利。重賞勝利はセレニティフレア(ゴールドジュニア)、ドミニク(名古屋・ゴールドウィング賞、クイーンC)、スタンレー(名古屋・中京ペガスターC)。

 サマーカップシリーズは初日に笠松勢「全勝」、3日目には後藤正義調教師通算1000勝と渡辺竜也騎手重賞V。地元ファンを大いに喜ばせ、「笠松勢夏まつり」の様相で波に乗ってきた。


※「オグリの里2新風編」も好評発売中

 「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。

 林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。

※ファンの声を募集

 競馬コラム「オグリの里」に対する感想や意見をお寄せください。投稿内容はファンの声として紹介していきます。(筆者・ハヤヒデ)電子メール h-hayashi@gifu-np.co.jp までお願いします。