
ぎふ清流カップ優勝馬のダイジョバナイ(兵庫)と大山真吾騎手(左)ら喜びの関係者
西日本地区交流の3歳スプリント頂上決戦「第7回ぎふ清流カップ」(SPⅠ、1400㍍)が20日、笠松競馬場で行われ、大山真吾騎手が騎乗した5番人気の兵庫・ダイジョバナイ(飯田良弘厩舎)が逃げ切りVを決めた。ダイジョバナイは重賞初勝利。父ファインニードル、母グリシーヌシチー、母父ハーツクライという血統。
吉原寛人騎手で必勝態勢、単勝1.3倍の高知・リケアサブル(田中守厩舎)は3着に終わった。地元勢は牝馬のワラシベチョウジャが好位でよく踏ん張ったが4着。笠松勢は地元重賞11連敗。今年も再び勝てない日々が続いている。
ぎふ清流カップは昨年まで北陸・東海・近畿交流で実施されてきたが、今年は西日本地区交流として高知、佐賀にも門戸を開放。優勝賞金は1000万円に増額された。

ぎふ清流カップを逃げ切ったダイジョバナイと大山騎手。スティールアクター2着、ワラシベチョウジャは4着
■人気馬圧倒、逃げて突き放す強い競馬
ダイジョバナイは3走前、姫路「兵庫ユースC」ではリケアサブルに引き離されての3着だったが、追い切りの伸び脚は上々。「輸送はむしろプラスになる馬で、スーッと先行できる強みを生かしたい」と陣営も好感触で笠松に乗り込んだ。
レースは、ダイジョバナイが好ダッシュからマイペースで逃げたが、後続もピタリ追走。3~4コーナーではスティールアクター(角田輝也厩舎)騎乗の加藤聡一騎手が勝負に出て先頭に並びかけたが、突き抜ける脚はなし。ラスト200を切って、ダイジョバナイが逆に突き放して2馬身差でゴールを駆け抜けた。人気のリケアサブルには3馬身半差で圧倒した。

1番人気の高知・リケアサブルは吉原寛人騎手が騎乗したが3着に終わった
■高知のリケアサブル一本かぶりで高配当
確定後、清流ビジョンには単勝2550円と表示された。専門紙の予想は「○印」も多かったが、意外な高配当に驚かされた。桜花賞馬オグリローマンのひ孫で関東オークス3着のグラインドアウトなど、全国区で輝きを増す高知勢。リケアサブルへの一本かぶりとなって、兵庫勢3頭は低人気。3連複2120円に対して3連単は39110円でちょい荒れとなった。
「中心不動」の評価を受けたリケアサブルはネクストスター西日本の覇者。地方、中央交流の「兵庫チャンッピオンシップ(JpnⅡ)」では7着に敗れたが、今回の地方勢とは勝負づけが済み、一枚上の存在とみられていた。

表彰式で「勝負根性を発揮してくれた」と喜びを語った大山騎手
■「物見していたが、いい勝負根性を発揮」
大山騎手は2020年のオグリキャップ記念をマイフォルテで制覇しており、表彰式でも笠松になじんでいる様子。勝利インタビューでは「うれしいです。逃げた方が持ち味が出るので、何が何でも行こうと。1~2コーナーで物見していたが、いい勝負根性を発揮して走ってくれた」とデビュー戦以来コンビを続ける主戦が愛馬をたたえた。
さらに1400メートル戦で「メンバーは強かったが、挑戦者のつもりで来た。テンに行くスピードがあり、それが武器。安心せずに最後までしっかりと追った」と重賞初Vの喜びに浸った。また「物見はしていたが、3~4コーナーで後ろから来られて並ばれ、逆に良かった」と気合を注入し、ダイジョバナイの闘志に再点火。好結果につなげることができた。

ダイジョバナイに騎乗し、返し馬を行う大山騎手
飯田調教師も「笠松向きのスピードが合っており、大山騎手にも『思い切って前で競馬するしかない』と。放牧で状態もアップ。追い切りもすごく良かった」と思い通りの展開に満足そうだった。
■4着ワラシベチョウジャ、地元馬の意地見せた
笠松勢では期待のワラシベチョウジャがインから伸びて4着と善戦。4番手キープから食い下がり、ゴール前ではリケアサブルと内、外に離れて3着争い。アタマ差で馬券圏内は逃したが、地元馬の意地は見せてくれた。重賞で3着続きのキスリング(田口輝彦厩舎)は塚本征吾騎手が手綱を取り、最後方から上がり3F最速(37秒0)で伸びたが6着どまり。同厩舎のブルーチースは10着、ウイルソンウェイ(加藤幸保厩舎)は12着だった。

地元ファン期待のワラシベチョウジャは踏ん張って4着
■ご当地レースなのに…名古屋の騎手7人、笠松は2人だけ
ワラシベチョウジャは昨秋にはネクストスター笠松を勝ち、生え抜きのスターホース候補に名乗りを上げた。新緑賞、クイーンCなど東海地区重賞でも3戦連続2着と安定感はあるが、ここ6走は勝ち切れないレースが続いた。よく頑張っているがパンチ力不足。笠松を中心に使われ、遠征は名古屋への1回のみ。今後は金沢、園田など他地区での交流レースにも挑んで刺激を受け、成長につなげていきたい。
ぎふ清流カップ出走馬は笠松、名古屋が4頭ずつで、兵庫3頭、高知1頭。ところがジョッキーの顔ぶれは、地元重賞なのに名古屋勢7人に対して笠松勢はわずか2人。「ぎふ清流」のご当地レース名からも地元の乗り役に多く参戦してほしかったが、寂しいレースとなった。
■嘆くファン「ここは本当に笠松か」「名古屋競馬笠松支店」
出走表を見て、がっかりした地元ファンは多かった。「笠松の騎手は2人しか騎乗しない。地元コースのことは笠松の騎手の方が詳しいのでは」と嘆きの声も聞こえてきた。
レース前、来場者からも「ここは本当に笠松競馬場なのか。ファンとしては、つまらないですね。笠松の馬なんだから、笠松の騎手に乗ってほしい。馬主さんや厩舎サイドでは『勝ってほしいし、少しでも上位の可能性がある騎手を』と選んでいるのでしょうが、もうちょっと地元騎手にチャンスを与えてほしい」「名古屋の騎手は多く乗っているのに、笠松の騎手は1日2レースの人もいる。ここは『名古屋の支店』じゃないんだから、おかしいのでは」と情けない思いを募らせている。
馬券を購入するファンがいてこそレースは成立するのだから、現場サイドは笠松愛にあふれる来場者の声にもっと応えるべきでは。
■不祥事からまだ再生途上、根が深い問題

ぎふ清流カップを制覇した優勝馬ダイジョバナイ
ぎふ清流カップは好天に恵まれた初夏のビッグレースのはずが、来場者は690人。人気馬ハルオーブや田口貫太騎手が参戦した前日より少なかった。レースを展望しても、笠松勢の勝利の可能性は低く、ワラシベチョウジャでも6番人気と低評価だった。
笠松競馬場にやって来るファンの大半は地元の競走馬、所属ジョッキーの応援のため、わざわざ足を運んでいるのである。馬券はネットで買う人が9割を占めるようになって「販売額はそこそこ伸びているから、いいでしょう」といった競馬場サイドの思いが透けて見えてくるが、不祥事からはまだ再生途上で、この問題は意外と根が深いのでは。
笠松競馬場はオグリキャップやライデンリーダーを育て上げた聖地であり、かつては地方競馬をリードしてきたが、一連の不祥事の後遺症がまだ尾を引いている。有力馬は他地区へ流出し、生え抜き馬はなかなか育たず。現状は道営やJRAで頭打ちになった未勝利馬などの受け皿にもなっているが、有力馬の入厩は少なくレベルダウンが続き、名古屋勢には見下ろされている。

ゴール前、腕を競い合う笠松、名古屋のジョッキー
■遠征馬の「草刈り場」馬券売れても真の信頼回復へ道半ば
「笠松勢の地元重賞11連敗」は、やはり情けないことだ。昨年の大みそか、東海ゴールドカップでは向山牧騎手騎乗のストームドッグ(森山英雄厩舎)が勝ち、笠松馬の地元交流重賞勝利(笠松馬限定レースを除く)は1年半ぶり。連敗を「25」でストップさせた。その後半年、異常事態は再び続いており、笠松重賞は、名古屋、兵庫からの遠征馬の「草刈り場」となり、1着賞金をさらわれるお決まりの展開。笠松の厩舎に馬を預けている馬主さんや厩舎関係者には還元されないで、ファンには「馬場をただ貸しているだけ」と冷笑されている。
現状、笠松競馬所属馬のレベルは全国的に「最後方」といえるが、現場の調教師の先生や優秀な厩務員の皆さんは、強い馬づくりに懸命になって励んでいらっしゃる。今は後方待機でも、これからどんどん前へと上がっていけばいい。
一連の不祥事から「新生・笠松競馬」として再出発して、この9月で3年になるが、馬券は売れても真の信頼回復へは道半ば。イメージダウンからの脱却には10年かかるとみていたが、「どん底」をはい回って立ち上がり、足腰は強くなったはず。あとは地道に前に進んで、全国レベルで戦える強い馬を育てていただきたい。
目標は「第2のラブミーチャン」。地方・中央交流のダートグレード競走でも勝負になるスターホースが、いつかきっとまた出現すると信じており、「オグリの里」としても「笠松所属馬のダートグレード制覇」を夢見て、笠松競馬ファンとともに応援を続けていきたい。
■笠松の騎手より名古屋の騎手の方が多く勝っている
今年に入って笠松競馬では10開催、550レースが行われた。笠松の騎手が300勝(期間限定騎乗含む)、名古屋の騎手が238勝、他地区やJRAの騎手が12勝。このうち、3月の第21回開催では、笠松勢18勝に対して、名古屋勢が26勝と大きく上回った。塚本征吾騎手が1日3勝など好調で、9勝を挙げて開催リーディングを獲得。トップ常連の渡辺竜也騎手が8勝で2位、岡部誠騎手が7勝で3位と続いた。

最終レースをギンザトップレディで逃げ切り、笠松勢の意地を見せた深沢杏花騎手
本年度も第2回開催は笠松勢35勝に対して、名古屋勢が37勝で上回った。第4回開催はともに22勝でイーブン。そこで今回注目した結果、第5回開催「ぎふ清流カップシリーズ」でも岡部騎手が8勝で開催リーディングを獲得。笠松勢18勝、名古屋勢は22勝でまたもリードした。
2日目(6月19日)には1Rから「名古屋の騎手がよく勝つなあ」と感じていたが、6Rまで岡部騎手、塚本騎手、丸野勝虎騎手が2勝ずつと笠松勢を圧倒していた。
ようやく7Rで馬渕繁治騎手、10Rで深沢杏花騎手が勝ってくれたが、いつか名古屋勢の「全勝」もあるのか。笠松競馬のファンにとって、そんな恥ずかしい記録だけは見たくはないが、このまま名古屋の騎手への騎乗依頼が増えれば、その可能性も十分にある。
最終日には笠松勢(騎乗数52)が3勝、名古屋勢(騎乗数31)は8勝で上回り、勝率も25%超と高かった。笠松参戦の名古屋所属馬は相変わらず強いし、人馬ともに「名古屋>笠松」の構図は近年定着しており、笠松勢の奮起が望まれる。渡辺騎手は97勝でリーディングを快走中だが、2位・岡部騎手、3位・塚本騎手らの勢いに対抗しながら、年間200勝を目指して勝ち星を伸ばしていきたい。
■スターホースの出現を待ち続けたい。
競馬場が最も盛り上がるのは、地元のスターホースが熱いレースを見せてくれ、遠征先でも活躍してくれることだ。馬主さんに強い馬を預けていただくには、高知や園田のように、主要レースの賞金高額化も当然必要になってくる。まだまだ笠松競馬の再生、信頼回復への道のりは険しいが、笠松を愛するファンたちを含めた全てのホースマンとともに、新たなスターホースの出現を楽しみに待ち続けたい。

地方通算500勝達成を達成した後藤佑耶調教師(左)を祝福するセレモニー。厩舎所属の長江慶悟騎手(右)、明星晴大騎手も参加し厩舎の飛躍を誓った
■後藤佑耶調教師が地方通算500勝「皆さんの支え」に感謝
笠松勢にとって若手騎手が多いことは、将来的には「希望の光」にもなっており、成長が期待されている。
6月7日、今年も笠松リーディング2位の後藤佑耶調教師がタイセイドリームで、地方競馬通算500勝を達成した。父は名伯楽の後藤保さん、兄が後藤正義調教師という笠松競馬の名門ファミリーの一員として開業から7年。2021年には白銀争覇で重賞勝ち。昨年は123勝を挙げ、笠松では笹野博司調教師に迫る存在になった。
笠松競馬では調教師の表彰セレモニーは500勝ごとに行われる。達成記念セレモニーには厩舎所属の長江慶悟騎手と明星晴大騎手、所属馬ハルオーブなど騎乗依頼が多い塚本征吾騎手らも参加した。
後藤佑耶調教師は「地道にやってきて、ここまで来られた。不祥事もあって調教師が少なくなり、その分勝つチャンスも増えたかなと」。所属馬の出走に際しては「常に良い状態で出走できるように心掛けてきた。良い馬を預けてくださるオーナーさまや一生懸命やってくれるスタッフ、ジョッキー、装蹄師さん、獣医さんら多くの方が支えてくれたおかげです」と感謝の気持ちを伝えた。
■長江騎手、明星騎手の飛躍を期待
24歳の長江騎手、18歳の明星騎手と若手2人が厩舎に所属。「まだ減量も取れていないのでこれからですが、できる限り乗せてチャンスを与えてあげたい。2人ともリーディング5位以内に入れるような騎手になってもらいたいし、何より周りから愛されるジョッキーになってほしい。厩舎一同一生懸命やっていくので応援をよろしくお願いします」とファンに呼び掛けた。
明星騎手は4月にデビューしたばかり。第5回開催も先行策で3勝を挙げた。左腕のけがから約3カ月ぶりに復帰した長江騎手も3日目に1、3Rを制し1日2勝。明星騎手も7Rで勝ち、初めての同日勝利となった。
長江騎手はプロ野球ロッテの佐々木朗希投手のそっくりさんとしてテレビ出演したこともあり、ツーショット対面や始球式登板も期待されている異色のジョッキー。明星騎手は父が愛媛の競輪選手で、同じ公営競技の選手に憧れて競馬の世界に入った長身ジョッキー。2人ともまだ減量騎手の身で学ぶことは多いが、まずは100勝ライン突破を目指して、白星を1つずつ積み重ねていきたい。
※「オグリの里2新風編」も好評発売中

「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。
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