
「何とか勝てて良かったです」。最後の直線、先頭を奪いかけた単勝1.2倍「絶対王者」がまさかの大ピンチ。逸走気味に外ラチ方向へと膨れたが、鞍上の好判断で軌道修正。今井貴大騎手騎乗のフークピグマリオン(セン馬3歳、宇都英樹厩舎)が東海地区の3歳馬頂上決戦を制覇した。
クラシックロード2冠目「第54回東海優駿」(SPⅠ、2100メートル)が5月29日、名古屋競馬場で行われた。フークピグマリオンは1冠目・駿蹄賞を6馬身差で圧勝。単勝1.2倍は昨年のセブンカラーズと同じで「1強ムード」。焦点は2着争いとみられた。1着賞金は1200万円にアップされた。
■名古屋、笠松の2頭がラスト強襲
2年目の大畑慧悟騎手がウインジャックで逃げ、叔父の大畑雅章騎手のニジイロハーピーが4コーナーで先頭に立った。中団で馬群に包まれていたフークピグマリオンは、3~4コーナーから一気にスパート。2番手に押し上げ、笠松からただ一頭挑戦した渡辺竜也騎手・キャッシュブリッツ(牡3歳、笹野博司厩舎)も外に出して追撃。駿蹄賞1着、3着の名古屋、笠松の2頭がラスト強襲。息詰まる攻防となった。

■一瞬「やばい」、外に膨れたが今井騎手が好騎乗
ところが240メートルに伸びた弥富の直線で残り200を切って衝撃的な展開。フークピグマリオンは「嫌々をするような走り」で外に大きく膨れるアクシデント。一瞬「やばい」と関係者や馬券を握ったファンを驚かせたが、今井騎手が右ムチを左ムチへと切り替える好判断。フークピグマリオンの進路を元に戻し、ゴール手前でもう一伸び。ニジイロハーピーをかわして駿蹄賞に続く2冠を達成した。
キャッシュブリッツも外を回って、鋭い末脚で追いすがり2着に突っ込んだ。1馬身半届かなかったが、あのままフークピグマリオンが斜行を続けていたら、どんな結末になったのか。さらに1馬身半差の3着にニジイロハーピー。1月には渡辺騎手とのコンビで兵庫クイーンセレクションも制覇しており、力のあるところを見せた。

■今井騎手、アンカツさん超え5度目の制覇
ダービー時代を含めた東海優駿での勢力図は、名古屋勢29勝、笠松勢17勝(このほかJRA勢7勝、金沢勢1勝)となった。アンカツさんと4勝で並んでいた今井貴大騎手は通算5勝目で最多となった。
宇都英樹調教師はうれしい東海優駿初制覇。勝ったフークピグマリオンは父ラニ、母エイシンサンタフェという血統。ネクストスター中日本、駿蹄賞に続く重賞3連勝で3歳世代の頂点に立った。

トミケンシャイリ以来4年ぶり制覇の今井騎手。優勝インタビューでは「プレッシャーは結構ありましたが、ここを目標にやってきたのでホッとしています」と断トツ人気からの解放感がにじんだ。「馬自体は調子良かったですが、前回2000メートルを使い中3週で疲労が残っていて、最後の直線では嫌気を出して走っていたのかなあ」と冷や汗での勝利となった。
展開的には「あの位置でじっとして、馬群をどこかで割ろうかと。すごい力を持っているので今後が楽しみ。またこの馬と頑張っていきたい」と話し、ファンの声援に応えていた。
宇都調教師は「予定通りの調教を消化し、やれることは全てできた」と送り出したが、レース中はハラハラドキドキ。「心配でお守りをずっと握りしめて見ていました」とのことで、やはり圧倒的1番人気でのプレッシャーは相当なものだった。

■渡辺騎手「四角で詰まった」、成長ぶりには笑顔も
2着のキャッシュブリッツに騎乗した渡辺騎手。一昨年のイイネイイネイイネ、昨年のツミキヒトツに続いてこのレース3年連続で2着と、またも悔しい一戦となった。それでもレースから戻ってくると、馬上では笑顔も見せており、それなりに満足できた内容だった。
今年も栄冠にはあと一歩届かなかったが「返し馬もすごく良かったのでいけるかなあ」とゲートオープン。中団のインから4番手に押し上げ、「四角でちょっと詰まっちゃって、もったいなかった。三角でも今井さんの馬が来たんで出せなった。まだ力の差はありますが、馬は使うごとにすごく前向きさが出てきて、レースがしやすくなってきた」とキャッシュブリッツの成長ぶりを実感。

■3年連続2着で「来年こそ」
中央1勝クラスから笠松に転入。名古屋・スプリングC5着、笠松で2勝、駿蹄賞3着から挑んだ頂上決戦。「名古屋初戦は流れに乗れなかったが、きょうは自分で競馬をつくれるぐらい手応えがあった。3年連続で2着なので『来年こそ』」ともう1段上の王座奪取に強い意欲を見せた。
「馬がしっかりしてきて、展開的には流れに乗れたので良かった。勝ち馬には強い競馬をされちゃったな」とも。また2着という結果は残念そうだったが 、今後につながるレース内容には「まあ良かったです」と1戦ごとに収穫。3歳クラシック3冠目の「岐阜金賞」(8月14日)でのリベンジに向けてさらなる成長が期待される。
■笹野調教師「手応え、レース内容良かった」
管理する笹野博司調教師も「そんなに切れる脚があるわけじゃないので 、3~4コーナーで内を突いて強引にでも行けばよかったかも。今井君に先に行かれちゃったんでもったいなかった」と勝負どころでの駆け引きを振り返った。

「道中の位置はまずまずで脚がたまった。どこかで外に出すように言って、最後に外へ切り替えてましたが 先に行かれちゃって。でも前回より手応え、走りは良かった」と次走に向けて手応え十分の好内容だった。
■消えた「ダービー」の名称に寂しさも
ところで「東海優駿」へのレース名変更は、ダートグレード競走の体系整備のため。今年から東京ダービーを新たな「3歳ダート3冠競走」の2冠目としてJRA交流の「JpnⅠ」とすることに伴い、全国のダービーシリーズを廃止。昨年までの「東海ダービー」から改称された。
元々は1971年「東海優駿」として創設されたレースだが、80年以降は「東海ダービ-」として定着したきた。ところがホースマンの大きな目標でもあり、競馬界のシンボル的な「ダービー」の名称が消えてしまった。東京一極集中の様相で「ダービージョッキー」などと呼べなくなるのはどこか寂しさがある。一時(96~2004年)「名古屋優駿」(副称・東海ダービー)と変更されていた時代もあり、副称として残してもらえるとうれしいが…。

■ジョッキーズCS、渡辺騎手参戦
昨年は総合5位と初出場で健闘した渡辺竜也騎手。地方競馬最強ジョッキーを決める頂上決戦「ジョッキーズチャンピオンシップ」は5月30日、園田競馬場で行われ、今年の王者が決まった。
各競馬場の勝利数トップ(昨年4月~今年3月)のジョッキー12人が出場。優勝者は8月24、25日に札幌で行われる「ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)」の地方代表候補騎手に選定される。世界のトップジョッキーが集結する「夢の札幌」が待っている。

■第1戦は森泰斗騎手1着、岡部誠騎手2着
今年はファーストステージはなく、園田での2戦のみで王者を決定。第1戦の9Rは森泰斗騎手(船橋)騎乗のリコーグロックが逃げ切りVを決めた。渡辺騎手は6番人気のオリエンタルメラクに騎乗し最後方から追走。最後の直線で前の2頭をかわしたが、差し脚は不発で10着に終わった。岡部誠騎手(愛知)が3番手から2着に上がり、山田義貴騎手(佐賀)が3着に食い込んだ。
渡辺騎手は「後ろでいいところがなかった」。3~4コーナーの勝負どころでは いい脚で上がっていきかけたが「みんなと同じようになって」と伸びを欠き、ポイントを稼ぐことができなかった。

■第2戦は吉村智洋騎手1着、渡辺騎手4着
11Rでは吉村智洋騎手(兵庫)騎乗のブリッツェンシチーが2番手からあっさり差し切って地元V。山崎誠士騎手(川崎)が2着、矢野貴之騎手(大井)が3着。2戦とも先行勢有利の流れとなった。
渡辺騎手は3番人気のべラジオウマムスコに騎乗。パドック解説では「追い切り時計は出ているし、好調キープでいい勝負になりそう」との評価。先団に加わり、3着はあるかという好位置だったが、最後の一伸びを欠いて4着。インから3番手に上がったが「そこから伸びなくてチャンスがなかった。悔しいです」と名手が腕を競うジョッキー戦での競馬の難しさを痛感していた。

【総合ポイント順位】
①吉村智洋(兵庫) 34P(8着、1着)
②森 泰斗(船橋) 34P(1着、8着)
③岡部 誠(愛知) 30P(2着、5着)
④山崎誠士(川崎) 28P(6着、2着)
⑤矢野貴之(大井) 21P(7着、3着)
⑥山田義貴(佐賀) 21P(3着、7着)
⑦渡辺竜也(笠松) 13P(10着、4着)
⑧村上 忍(岩手) 13P(4着、10着)
⑨落合玄太(北海道)12P(5着、9着)
⑩赤岡修次(高知) 9P(12着、6着)
⑪秋元耕成(浦和) 3P(9着、12着)
⑫栗原大河(金沢) 2P(11着、11着)
(同点の場合は①最上位を優先②第2戦の着順上位)

■吉村騎手2度目の総合V、渡辺騎手は7位
第2戦を勝った地元・兵庫の吉村騎手が34ポイントで総合優勝に輝いた。同ポイントの森泰斗騎手(船橋)が2位(第2戦の着順で決定)。30ポイントの愛知・岡部騎手が3位となった。
2度目の総合Vを飾った吉村騎手は「ついてますね。ここは庭なのでさすがに負けられない。地元の意地があるので、優勝できて良かった」。札幌競馬場でのWASJに向けては「2回目なんで、もっと上位を目指して頑張りたいです」と意欲を示した。
渡辺騎手は昨年総合5位で「来年は馬券圏内(3着以内の表彰台)目指して頑張ります」と語っていたが、今年は馬券には絡めず総合7位に終わり悔しそう。ここでも「来年こそ」との思いを強くした。

■東海ダービーはアンカツさん25歳、岡部騎手31歳で初制覇
東海優駿では3年連続2着と「シルバーコレクター」となってしまったが、渡辺騎手はまだ24歳でこれからだ。笠松のレジェンド・アンカツさんが東海ダービーを制覇したのは25歳で、岡部誠騎手は31歳だった。
近い将来、東海優駿を初制覇してくれるだろうが、そのためには笠松の厩舎で強い馬を育てる必要もある。一連の不祥事以降、重賞戦線で戦える有力馬は他地区へ移籍。昨年末の東海ゴールドカップまで笠松所属馬が地元交流重賞を1年半も勝てず「24連敗」という屈辱を味わった。笠松の所属馬のレベルは全国的にも「最後方」とされ、強い馬づくりとともに、かつて中央の負傷馬を再生させた実績からは「重賞クラスの中央馬の笠松転入を」といった声も強まっている。
■強い馬を探し出し、育成は「厩務員が第一」
昨年の夏、お話を聞いたオグリキャップの笠松時代の調教師、鷲見昌勇さんは北海道の牧場巡りをして、走りそうな馬に目を付け、オグリ一族など名馬を育てた。強い馬を探し出し、育てるには「厩務員が第一」と厩舎スタッフ総力戦での馬づくりも強調されていた。
競走馬は「○○セール」だけでなく、生産牧場での「庭先取引」で売買されることも多い。時間と労力はかかるが、地道に生産牧場を巡って「名馬の原石」を堀り出し、一から愛馬育成を手掛けていただきたい。
※「オグリの里2新風編」も好評発売中

「1聖地編」に続く「2新風編」ではウマ娘ファンの熱狂ぶり、渡辺竜也騎手のヤングジョッキーズ・ファイナル進出、吹き荒れたライデン旋風など各時代の「新しい風」を追って、笠松競馬の歴史と魅力に迫った。オグリキャップの天皇賞・秋観戦記(1989年)などオグリ関連も満載。
林秀行(ハヤヒデ)著、A5判カラー、206ページ、1500円。岐阜新聞社発行。笠松競馬場内・丸金食堂、ふらっと笠松(名鉄笠松駅)、ホース・ファクトリー、酒の浪漫亭、小栗孝一商店、愛馬会軽トラ市、岐阜市内・近郊の書店、岐阜新聞社出版室などで発売。
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