男性が亡くなっていた場所を訪れ手を合わせる清水由子さん(右)と東岡牧さん=2月28日、土岐市泉町大富

 2月28日。岐阜・野宿生活者支援の会(岐阜市)事務局の清水由子さんと、野宿者を支援する会(名古屋市)代表の東岡牧さんは、亡くなった男性がかつて暮らしていた高架下で静かに手を合わせた。供えられていた花は既になく、服や毛布といった男性の所持品も片付けられていた。どんな人だったのか、今となっては身なりも表情も分からない。「救えなくてごめんなさい」。そっと2人はつぶやいた。

 両会などが土岐市役所で加藤淳司市長に抗議文を手渡した際、団体側と市長が対話する場が設けられた。清水さんは「(面談した)回数の問題ではなく、本当にその人に寄り添うことができたのかをもう一度考えてほしい」と訴えた。

 当事者と関わることの難しさも吐露した。主に名古屋市で路上生活者の居場所を直接訪ねる「夜回り」や「昼回り」を続ける東岡さんは、昨年夏だけでも熱中症が原因とみられる路上生活者2人の死に触れている。健康状態が悪化して危険な状態にありながらも、救急車に乗せられるのを拒む人もいる。「全く支援できていないじゃないか、一体私たちは何をやっているんだろう。そんな思いを持ちながら活動しているんです」

 抗議のための機会は、互いの隔たりを踏まえつつ、協調に向けて歩み出すための場になった。抗議文を受け取った加藤市長は、そうした民間団体があることを知らなかったと素直に明かしながら「抗議というよりも、提言に近いと感じた。一緒にまちを良くしていきたいという思いが伝わってきた」と語った。

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 どうしたら良かったか。できることは他になかったか。男性の死亡が確認される前日に消防へ通報した加瀬都子さん=仮名=もまた、男性の死に思いを巡らせていた。

 加瀬さんの友人たちの多くは、男性と交流があることを話すと「よくそんなことするね」と言った。「あんなに汚い格好だったし、普通は怖いですよね。でも、あいさつしたら返してくれて『気をつけて帰ってくださいね』と言ってくれる。そんな人なんです」。支援なんか大それたことをしなくてもいい。「あの人、元気かな」とのぞくだけでいい。「ちょっとずつの優しさが見守りにつながる。小さな優しさをみんなが持てるようになれば、当事者の安全にもつながるし、地域で見守れる」。ただ現実には、そうはなっていない。「行政だけが抱え込んだら駄目だと思うの」

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 岐阜市の人権教育・啓発推進専門委員として、清水さんが人権をテーマに小中学校で講話するとき、子どもたちに必ず投げかけている問いがある。「皆さんはホームレスを見かけたことがありますか」。ほとんど手は挙がらない。そうして言葉を足していく。「ひょっとしたら見ようとしなかっただけかもしれません。無意識に意識から消している、見なかったことにしている、現実から目を背けているのかもしれません」

 清水さんが事務局を務める支援の会は昨年、発足から25年を迎えた。路上に暮らす人の数は年々減り、会の活動から「夜回り」が消えて久しい。ただ、見えづらくなってこそいるが、ゼロではない。「社会からホームレスがいなくなることはない」。そんな実感さえある。「存在が見えづらくなっている人がいることを前提にして、どう関わるかをみんなで考えたい」。地域社会の中にある「つながりにくさ」は、決して行政や民間の支援団体だけが向き合う課題ではない。

=第5章おわり=

(この連載は山田俊介、坂井萌香が担当しました)


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