加瀬都子さん(仮名)が男性との交流を記録した日記。おにぎりを一緒に食べたことなどを記している=今月2日、瑞浪市内

 土岐市の高架下で遺体で見つかった路上生活者の50代男性。119番を受けた市消防本部が出動しなかったことが問題視されているが、そもそも男性はどんな暮らしぶりだったのか。

 2019年ごろには路上生活を始めていたとみられ、身分証などは持っていなかった。時折、声をかけて食事を差し入れていた通報者の加瀬都子さん(68)=仮名=によると、元々は隣の瑞浪市に住んでおり、同居の父親が亡くなったことをきっかけに土岐市の路上で暮らしていたという。

 寡黙で自分のことは語らなかったが、あいさつをするといつも穏やかな声で返し、他愛もない話には「そうですね」などと応じてくれた。当初は食事を持って行っても「私は犬や猫じゃないので、いただきません」と断ることもあった。昼は高架下を離れて歩いてどこかへ行き、夜になるとふらっと戻ってくる。蓄えがあったのか、現金収入のつてがあったのかは分からないが、昨年の12月末には「お金が尽きた」と話していた。

 近所に住む加瀬さんは「最初は人として興味があった」とあいさつ程度の会話から始め、少しずつ心をほどいてきた。付き合いが5年ほどになっていた昨年末には、「お金が尽きたと聞いて、放っておけなかった」と友人とおにぎりを持って会いに行き、3人で並んで一緒に頬張った。だが、男性とつながりを持ち続けてきたからこそ、こう思う。「実は亡くなったと知った時、何だかほっとした面もあるんです」

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 男性は、公的な支援を全く受け付けなかった。

 土岐市によると、福祉課が男性の存在を知った22年以降、職員が出向いて面談を9回重ねた。担当者は「しつこく聞き過ぎて毛嫌いされて、次の支援につながらなくなってはいけない」と、1回の面談時間を15分ほどにとどめるほど注意を払った。だが、生活保護などについて何度説明しても、最後まで男性が支援を望むことはなかった。

 昨年末には、近所に住む男性が何らかの支援につなげようと市役所に連れて行ったが、嫌がって庁舎に入らなかったという。「緩やかな自殺とでも言うんでしょうか」と加瀬さん。生きるための支援を断り続けた理由を尋ねることはもうできないが、救急車が出動して搬送されていても、男性は支援につながることを望んだだろうか。加瀬さんは「助かっていたら幸せだったのかな、とも思います」と複雑な胸中を明かす。

 望まない人を行政が強制的に支援する枠組みは、もちろんない。だが市の担当者は「寒さで命を落とす危険もある」と危惧し、遺体が見つかる1週間前の1月6日にも面談している。この時期は既に現金は尽きていたはずだが、生活保護の受給を勧めても、男性は「まだいいです」と拒否。市の担当者は「私たちもやれることはやったと思う」と語る。

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 加瀬さんや友人をはじめ、近所の男性、市の担当者など多くの人が男性を支援しようと試みた。往来の多い高架下で男性を目にしたことがある市民もいるはずだ。既に息を引き取っていると気付かずに男性の遺体の前を通った人もいるだろう。男性を救うことは本当にできなかったのか。「誰も悪くない。でも…、みんなが悪いんじゃないかな」。加瀬さんは言葉を絞り出した。


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