抗議文を提出した岐阜・野宿生活者支援の会の清水由子さん(前列右)と野宿者を支援する会の東岡牧さん(同左)=2月28日、土岐市役所

 土岐市の中心市街地に、JR中央線を南北にくぐるアンダーパスがある。国道19号や21号に通じるため交通量は多く、トンネル状の歩道は小学生の通学路にもなっている。壁面はタイルアートの花などで彩られており、雰囲気は明るい。ここで今年の1月14日、路上生活をしていた50代男性の遺体が見つかった。

 市民からの119番を受けながら、市消防本部は救急車を出動させていなかったことが後に判明し、市は批判にさらされている。市幹部は記者会見で謝罪し、経緯を検証するため第三者委員会を設置する方針を示した。市には苦情の電話やメールが寄せられ、岐阜・野宿生活者支援の会(岐阜市)などは加藤淳司市長に抗議文を出した。

 ここで一つの疑問が湧く。土岐市の人口は約5万2千人。現場は交通量が多く、歩行者も通る高架下の歩道だ。男性は、少なくとも2019年ごろから路上生活をしていたとみられるが、救いの手を差し伸べる人はいなかったのか。なぜ、男性は冬の路上で独り亡くならなければならなかったのか。

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 13日に通報したのは、近所に住む加瀬都子さん(68)=仮名=だった。通報のきっかけは、前日に友人の女性から「男性に元気がない。会話もできるし、持って行ったコーンポタージュも飲んでくれたけど、あした見に行ってほしい」と連絡をもらったからだった。男性は、近隣ではよく知られた存在だったという。

 13日午後6時ごろに様子を見に行くと、いつもは壁に寄りかかって座っているのに、横になり目をつぶっていた。声をかけても返事がない。いつもなら「こんばんは」と穏やかな声で返事をしてくれるのに。「どうしたらいいのか分からなくて。急いで帰宅して、夫や友人に相談して消防に通報しました」

 「火事ですか、救急ですか」。加瀬さんは「救急です。ホームレスの人、分かりますか。先ほど声をかけても反応がないんです。いつもと様子が違うので行ってくれませんか」。消防は男性について「分かりますよ」と認識してくれていた。「あの方なんです。お願いしますね」と加瀬さん。消防は「相談します」と返事をして電話を切ったという。

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 加瀬さんと男性は5年ほど前、散歩中に偶然出会ったことから交流を持ち続けてきた。男性はここ1年ほど高架下を主な居場所としており、わずかだが身の上話を聞いたこともある。もちろん消防が出動しなかった理由は解明されるべきだと感じているが、「ちゃんと男性を支援につなげば良かったのかもしれない」との思いも残る。

 男性の存在を知っていたのは、加瀬さんや友人、消防だけではない。市は遅くとも22年から男性の存在を認識しており、これまでに面談を9回行い、生活保護などの支援につなげようとしていた。最後に面談したのは、遺体が見つかったわずか1週間ほど前の1月6日。「男性はずっと支援を断り続けていた」。市職員はこう証言した。


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