地下鉄サリン事件の発生約1カ月後、山梨県・旧上九一色村(現富士河口湖町、甲府市)のオウム真理教教団施設「サティアン」から、53人の子どもが救出され、甲府市の児童相談所に一時保護された。元児相職員が当時を振り返った。

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 子どもたちの顔色は透き通るように真っ白で無表情。立つこともできず、「ここは現世?」と尋ねた子もいた。とにかく臭かった。風呂でも洗い方を知らないのか、湯船に突っ立ったままの子も。食事は手づかみで食べる子が多かった。

 大半の時間を修行に割き、悪いことをすれば縛って逆さづりにされたといい、虐待が常態化していた。

 敵意をむき出しにして「オウムに帰せ」と迫った。「親子関係は煩悩」と否定されていて「会うくらいなら死ぬ」と拒んだ。親の絵を描くよう伝えると、描いては消してを繰り返した。葛藤したのだろう。

 1週間ほどで変化が表れ、笑顔を見せるように。赤ちゃんのように甘える子も、「俺の母さん、迎えに来る?」と尋ねる子もいた。

 どんな大人になっているのか。今でも、子どもたちを思い出さない日はない。