高山帯に住むイタチの仲間のオコジョ。岐阜県内では白山や乗鞍岳、位山などに生息していますが、観察の難しさや研究者の少なさから実は生態がよく分かっていないといいます。準絶滅危惧種で「山の神の使い」「山の妖精」という呼び名もあるオコジョ。岐阜大学4年の学生が意外な方法で研究しています。目撃情報をSNSで調べているのです。
「岐阜新聞デジタル クーポン」始めました!対象店舗はこちら岐阜大学応用生物学部の安井萌実さん(22)は神戸市出身。オオカミやタカなど「かっこいい動物が研究したくて」(安井さん)、岐阜大学に進学しました。岐阜大で知ったのがオコジョという存在。研究室にこもるのではなく、野外での現地調査をしたい安井さんにとってはうってつけの研究対象でした。3年生の秋から研究を始めました。
オコジョは食肉目イタチ科。体長15センチから25センチほどで、主に北半球に分布。日本には岐阜県を含む本州にホンドオコジョ、北海道にエゾオコジョがいます。夏は茶色、冬は尾の先を除き真っ白な毛に包まれます。肉食です。
安井さんが研究フィールドとしたのは乗鞍岳の北西にある「五色ケ原の森」(高山市丹生川町)。2024年5月から12月にかけ、1カ月に1回、2泊3日で調査しました。木の穴や岩場など計20カ所ほどに自動撮影カメラを設置したところ、何回か俊敏に動くオコジョを捉えることができました。ですが許可を取って設置したわなにはかからず、実際に自分の目で見ることもできませんでした。

オコジョへのもう一つのアプローチは目撃情報の分析です。生息エリアを調べるために過去の調査結果の分析に加え、登山者向けSNSで目撃情報を調べました。
登山者向けアプリのヤマレコやYAMAPに載ったオコジョの目撃情報を調べました。実際に見たと考えられる投稿から安井さんは生息地を特定。過去の調査結果も含め1953年から2024年までの1162件(うちSNSからは118件)の目撃情報を収集、分析しました。
その結果、ホンドオコジョの生息に適した条件は標高1500メートル以上、年平均気温は零下3~5度の自然の林や草原で、10度以上では生息できないと推測しました。
研究者以外の人たちがSNSで発信した情報などを研究データとして利用し、科学的研究にいかすことを市民科学(シチズンサイエンス)といいます。近年増えている手法ですが、オコジョをテーマに絞ったものは初めてといいます。

安井さんを指導したのは岐阜大学野生動物資源学研究室の森部絢嗣准教授(45)です。安井さんがオコジョを研究したい、と言ってきたとき、「先行する研究がほとんどないのは、サンプル採集が難しいから」と指摘したそうです。高山帯に住むオコジョを観察する場所まで行くことが困難です。捕まえるのも難しく、国内の動物園にもいないそうです。
そんなオコジョをテーマにした安井さんの研究を、森部さんは高く評価します。「温暖化による生息域の縮小や、ニホンジカの高山侵入による植生変化がオコジョの生態に及ぼす影響を評価することは、気候変動と生態系の関連を理解する上で重要です。そのためにも安井さんの研究は、オコジョの基礎情報となる生息適地や分布の制限要因を解明し、その成果は、将来的な保全政策の立案や生息環境の維持・改善に貢献します」(森部さん)。
まだ分かっていないことは多くあるといいます。安井さんは野外調査に必要な登山技術を学ぶため、日本山岳会岐阜支部に入会。今春には岐阜大学の大学院に進み、オコジョ研究を続ける予定です。
「大学院に進んで、もっと、1カ月ぐらいの野外調査をしたいと思っています。オコジョは昔から山の神の使い、山の妖精という呼び名もあって神聖な生き物という捉え方もされています。なかなか出会えないし、動きも速い。出会えたらうれしいです」。
安井さんはオコジョの目撃情報を募っています。問い合わせは岐阜大学応用生物科学部野生動物資源学研究室、電子メールpisu7381@gmail.com