皮膚科医 清島真理子さん
口唇ヘルペスは唇やその周りがチクチク、ピリピリした後に小さな水膨れができる病気で、どの年齢でも起きます。水膨れは3~5日でかさぶたになり、1~2週間で治ります。原因は単純ヘルぺスウイルス1型で、一度感染すると一生、神経に潜伏します。健康な時には免疫でウイルスの活動を抑えていますが、疲労、発熱、睡眠不足、強い日焼け、ストレスなどで免疫が低下するとウイルスが活動を再開し、皮膚に水疱(ほう)を形成します。
日本ではおおむね半数の人がこのウイルスに感染したことがあると推定されています。症状のある人の水膨れや唾液などから感染するので他の人にうつさないよう注意が必要です。今のところワクチンはありません。
初めて感染した時には無症状で終わることが多いですが、小児などでは水膨れがひどく、発熱を伴うこともあります。患者さんにとって苦痛なのは再発性で、同じところに繰り返し出ることです。頻度は数年に1回のこともありますが、ほぼ毎月出ることもあります。急に出るので仕事や学校などで忙しくてなかなか医療機関に行けないという悩みをよく聞きます。
治療としてはウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬を服用してもらいます。再びウイルスが増殖し始めたらなるべく早く治療を開始した方が効果的です。
今までは水膨れが出たら医療機関に行って薬を5日分処方してもらっていました。最近ではPIT(ピーアイティー)療法という便利な治療が行われるようになりました。何回も再発を繰り返していて、ピリピリ、チクチクなどの初期症状が分かっている患者さんでは、あらかじめ薬を処方してもらって自分で保管しておいて、初期症状を感じたら6時間以内に、通常よりやや多い量の薬を1日だけ飲みます。この飲み方のできる薬は2種類あって、2回に分けて飲む薬と1回だけ飲む薬があります。この方法では治療が早く、しかも強力に行えるので、通常の飲み方より症状が早く治まるという効果があります。
つまり、この治療は「あらかじめ処方された薬を患者さんが初期症状から判断して薬を飲み始める治療」で「患者さん主導型治療」とか、海外では「1日治療」と呼んで注目されています。ただしこの治療ができるのは何度もヘルペスを繰り返し、初期症状が自分で判断できる人に限られます。
口周囲の再発性ヘルペスが起こっても、すぐに受診するのが難しくお困りの方は皮膚科に相談してみてください。