泌尿器科医 三輪好生さん
尿の勢いが弱く、残尿感がある-年を重ねるにつれてこのような症状を自覚する人が男女を問わず増えてきます。
尿の勢いが弱くなる原因は大きく二つに分けられます。一つは尿の通り道、つまり尿道が何らかの原因で狭くなること。もう一つは尿を送り出す膀胱(ぼうこう)の筋肉の収縮力が弱くなることです。前者の代表的な疾患として男性の場合は前立腺肥大症が、女性の場合は骨盤臓器脱が挙げられます。後者に関して、以前は神経因性膀胱、つまり神経に何らかの障害が起こって膀胱が収縮できなくなることが主な原因と考えられてきましたが、実際には神経に異常がなくても加齢に伴い膀胱の収縮力が落ちてしまう低活動膀胱が多いことが分かってきました。
低活動膀胱とは、尿道に狭いところがなくても尿勢が低下する状態であり、正確には膀胱の内圧を調べる検査で膀胱の収縮力が低下していること(排尿筋低活動)を確認することで診断がつきます。2023年に本邦で行われた疫学調査では20歳以上の男性の9・3%、女性の4・0%に低活動膀胱を認めることが分かりました。
低活動膀胱の原因は先に述べた神経の障害によるもの、加齢に伴うものに加えて慢性的な尿道の閉塞(へいそく)も原因となります。神経の障害としては糖尿病、直腸がんや子宮がんなどの術後、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄(きょうさく)症など脊椎の疾患が代表的です。前立腺肥大症や骨盤臓器脱などにより尿道に慢性的な閉塞があると、排尿する際に膀胱を必要以上に収縮させて尿を絞り出す必要があるため、膀胱の筋肉に負担がかかり虚血状態になります。慢性の虚血状態は酸化ストレスが増えることになり膀胱の筋力が落ちていきます。
加齢に伴う変化として、動脈硬化などによる膀胱の血流障害もまた酸化ストレスが増える原因となります。低活動膀胱の多くは慢性的に進行するものであり、弱った膀胱の筋力が回復するのは難しいです。治療薬としては、膀胱の負担を減らすために尿道の緊張を取るα1受容体遮断薬や、膀胱の筋肉の収縮を補助するベタネコール、ジスチグミンなどの薬がありますが、いずれも効果は弱く限定的です。
低活動膀胱の治療の目標は、現在よりも筋力の低下が進行しないように原因を取り除くこと、膀胱への負担を軽くすることです。低活動膀胱が進行すると最終的には尿が自分で出せなくなり、カテーテルの力を借りなければならなくなります。膀胱の機能が低下するのは日々少しずつの変化なのでなかなか気付かないかもしれませんが、尿の勢いが最近弱くなったな、と感じた時には一度かかりつけのクリニックに相談してエコーで残尿が増えていないか調べてもらうことをお勧めします。また、生活習慣病も膀胱の血流低下、神経の障害に影響することを意識して、日々の生活習慣を見直すことも大切です。