精神科医 塩入俊樹氏

 うつ病は、こころの病気のなかで、最も知られているものの一つです。あるネットアンケートによると、日本人の95%が「うつ病という病名を知っている」と答えています。では、うつ病とはどういう病気なのでしょうか?

 うつ病は、長期間(2週間以上)にわたり、継続的に(毎日、1日中)気分が落ち込んで(=抑うつ気分)元気がなくなってしまう病気です。そしてこの抑うつ気分は、良いことがあったり楽しいことがあったりしても、回復・軽快することはありません。つまり、気分転換ができないのです。

 例えば、もともとゴルフを趣味にされていたうつ病の方に、ご家族が「家の中でじっとしていると余計に気分がめいるから、気分転換にゴルフ練習場でも行ってらっしゃい」と言ったとしましょう。そしてその患者さんは、乗り気ではないけれど仕方なくゴルフ練習場に行き、元気があった時のように練習をしました。しかし全然楽しくありません。ナイスショットをしても爽快感は一切なく、まるで苦行のようです。他のゴルファーたちが楽しそうに打っているのを見ると、「皆楽しそうなのに自分は全く楽しめない。やっぱり自分は駄目だ」と悲観的なことを考えてしまいます。

 その他の症状としては、意欲の低下、自責感(このような状態になったのは自分の責任だと思う)、不安、イライラ、集中・決断困難などの精神的な症状だけでなく、食欲不振や睡眠障害(寝つきが悪い、夜中に何回も起きる、朝早く起きる、寝た気がしない)、易疲労感、頭痛などの体の症状もあり、多種多様です。そして重症化すると、罪責妄想(自分は罪を犯している)や貧困妄想(貧乏になり破産している)、さらに希死念慮や自殺企図がみられることもあります。

 次に、うつ病とストレスの関係についてです。うつ病になる時に必ずしもストレスが認められるわけではありません。しかしながら、例えば、仕事量の増加(オーバーワーク)や昇進、引っ越し、人間関係での問題や進学の失敗、あるいは親しい人の病気や死など、さまざまなストレスがきっかけでうつ病になる場合は少なくありません。そういう意味で、うつ病はストレス病の一つです。

 実は、ストレスでうつ病になるかどうかは、被ったストレス自体の大きさと元来個々の持っているストレス耐性(≒抵抗力)で決まります。日頃から、ストレスを解消する方法(例…趣味をする、旅行をする、友達と話す・外食をする、ゆっくり過ごす、など)をたくさん持っておくことが重要です。もちろん、うつ病になったとしても、今では副作用の少ない抗うつ薬がありますので、お薬を飲んでゆっくり休養することで回復できますから、ご心配には及びません。