「ぎふ高校研究」で岐阜県内の高校の校長先生にインタビューを重ねました。多くの校長が言及したのが「探究」の重要性でした。「探究活動で生徒の能力は間違いなく伸びる」という証言も。大学入試にも関係してくるようです。「探究とは何か?」。県内の高校を取材しました。(岐阜新聞デジタル独自記事です)
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「『オタク文化』の公共性に関する考察」。
3月中旬、多治見市内であった多治見高校の「総合的な探究の時間」全校発表会。3年生(当時)の小倉大知さんはこのテーマで発表しました。「オタク」の定義から始まり、批評家、作家の東浩紀さんの著作やフランスの哲学者ジャック・デリダの概念「脱構築」を参照に展開。「動物化」「環境管理型権力」といったキーワードを交えつつ公共性の喪失の構造と、再生に向けた指針を示しました。

「高校生離れしているその言語能力、新たな視点はどうやって得たのですか」。会場の教師からの質問に小倉さんは答えました。「探究活動のおかげです」。
3年生になったばかりのころは近場の大学に進むつもりだった小倉さん。高校の探究の授業で「ポストモダン」という思想があることを知りました。フーコーやデリダ。知の巨人の存在を知りました。教師の勧めもあり筑波大学比較文化学類に出願。探究の活動で学んだことを生かし、総合型選抜に出願して合格しました。「探究をしてよかったです。入試にもつながるから本気でやろうと思いました」と語りました。

◆「探究で生きる力を獲得できる」
探究活動とはどういった学習なのでしょうか。生徒が自分で課題を立て、情報を集め、分析し、考え、解決策や答えを探していく学習活動とされています。「総合的な探究の時間」として、2022年度から高校で本格的に実施されています。地元特産のカボチャを使った新たな土産品開発、南海トラフ地震が発生した場合の対策、高付加価値旅行者の誘客などのテーマで高校生たちが取り組んでいます。
多治見高校でも探究に取り組んできました。増田智至校長は「探究で生徒の能力は向上します。生きる力を獲得できます」と言います。生徒にとって普段の学校生活では学べないことを学ぶ機会になるといい、「全校発表会のように、発表する場があることで、どう伝えるかというコミュニケーション能力の成長にもつながっていきます」。
進路指導主事の桑原華栄さんは生徒全員が探究に取り組んでいるのが同校の特徴と強調します。「探究は学び方を学ぶ勉強。探究を通して将来の夢や希望の進路を見つけることができると思います」。手応えを感じているようです。
こうした探究活動は県内の多くの高校で進んでいます。加茂高校は普通科と理数科の募集を停止し、2025年度に文理探究科を新設しました。
◆探究活動で大学に進学
大学入試が大きく変わっています。大学入学者の50%以上が一般入試ではなく、総合型選抜、学校推薦型選抜で進学しています。
文科省の調査によると、令和6年度の国公立、私立大学の総合型選抜の入学者は全体の16.1%、学校推薦型選抜は35.0%で、合わせて51.1%でした。こうした選抜では探究活動が評価されるといいます。学科の試験ではなく、探究活動の成果を生かして大学に進学するケースが増えているのです。冒頭の小倉さんもこのケースです。
県内のある高校の校長先生は「探究が推薦入試でメリットになる」と言います。探究活動に参加した生徒のグループのうち1人が、この高校では進学例が少ない国立大学に合格しました。「探究していく力は大学でも求められています。それが探究活動で養われます」と話します。
◆探究活動で生徒は成長するのか?
そもそも探究は生徒の成長につながっているのでしょうか?
現場からは肯定的に捉える声が多く聞こえます。岐阜地区の進学校の校長は「探究活動で生徒の能力は間違いなく伸びる」と断言。可茂地区の校長も「探究学習をすることで学力は上がります」と言います。
15年度の全国学力・学習状況調査の分析によると、総合的な学習の時間で探究のプロセスを意識した学習活動に取り組んでいる児童生徒ほど各教科の正答率が高い傾向にあったといいます。
自ら課題を見つけ、情報を収集し、整理・分析し、話し合い、導き出した考えや意見をまとめ、伝わりやすいよう表現するサイクルを回す。こうした探究活動が求める手法が生徒を成長させるとされています。正解のない課題の答えを探す探究活動は生徒を高いレベルに引き上げるようです。
県教育委員会高校教育課の担当者は、探究だけで生徒が成長するとはしていません。教科の学習と探究活動の両方が組み合わさることを重視しています。課長補佐の服部一也さんは「探究により各教科の学びを統合することで総合的な学びになると思います」と話します。
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進学先を考えるとき、校長先生がどんな考えか、気になりませんか? 高校は義務教育ではなく、校長の考え方が学校運営に反映されやすいとされています。「ぎふ高校研究」は2025年度も県内の校長先生のインタビューを中心に展開します。各校の進学・就職実績や学校運営方針に加え、「探究」の取り組みもお伝えします。「探究」は今の高校を理解するために重要なキーワードのようです。(取材・文 馬田泰州)