地中海に浮かぶ南イタリア・シチリア島の郷土菓子「カンノーリ」。その専門店が岐阜市金町のカンノーロ&カンノーリです。岐阜市出身のオーナーシェフ水上公太さん(40)がイタリア修行で学んだレシピを基に、岐阜県産の小麦を使って仕上げています。「イタリアの人たちは地元愛が強く、食事も地産地消が基本。僕自身も大好きになったシチリアで愛されているお菓子を、ふるさと岐阜の皆さんに食べていただきたいし、食を通じた地域のつながりを大切にしていきたい」との思いが込められています。

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揚げ生地にリコッタチーズを詰めたシチリアの郷土菓子カンノーリ

 カンノーリはイタリア語で「小さな筒」を意味します。その名の通り、シチリア産ワインで練り上げた小麦を筒状にして揚げ、中にリコッタチーズをベースにしたクリームが詰めてあります。「コルネに似ていますが、生地を揚げるのがカンノーリの特徴で、ザクザクとした食感が楽しめます。この食感が命なので、クリームは注文を受けてから詰め、お客さまには『ぜひ6時間以内に食べていただきたい』とお伝えしています」と水上さん。

 リコッタチーズは南イタリア原産で、牛乳から乳脂肪分やカゼインと呼ばれるたんぱく質を除いたホエイ(乳清)から作られます。さっぱりとした軽い味わいが、油で揚げた生地にぴったりです。

ジュエリーショップをイメージしたおしゃれで目を引くカンノーロ&カンノーリの外観=岐阜市金町

 2022年にオープンしたカンノーロ&カンノーリは持ち帰り専門の店。ジュエリーショップをイメージしたおしゃれな外観は、老舗が立ち並ぶ柳ケ瀬エリアでひときわ目を引きます。ショーウインドーに飾られたかわいらしい商品見本に引き寄せられるように来店する人もいるようです。

 店頭では常時4種類のクリームを用意しています。リコッタチーズ、ピスタチオ、チョコの定番3種と、季節のフルーツなどを使った期間限定の1種。生地の両端からのぞくクリームには色鮮やかなドレンチェリーやピスタチオが飾られており、見た目の美しさや珍しさから、贈答用としても喜ばれています。

 価格は10センチ余のグランデサイズが1本680円、小さめのピッコロサイズが480円。クッキーなどの焼き菓子も扱っています。

 贈答用には、食べる直前に詰められるようクリームと生地を個別に包装したセット「おうちでカンノーリ」や冷凍品もあり、オンライン販売も行っています。

 シェフの水上さんは岐阜市日野の出身。大学を卒業後、愛知県の自動車関連企業に就職し、電気機械の設計に携わります。しかし、安定した職を得ながらも、「本当に自分のやりたいことができているのか」と自問自答する日々を送っていました。

 「やりたいこと」を模索する中で、頭に浮かんだのが「料理」でした。「子どもの頃から母の手伝いで料理をしていました。母と兄の3人でおせちを作ったりもして。一人暮らしを始めても毎日自炊をしているうちに、料理が好きだという気持ちが強くなったんです。料理の道に挑戦したいと」

 もともとチャレンジ精神が旺盛で、やりたいと思ったことはすぐに挑戦するタイプ。25歳の時、3年間勤めた会社を辞め、調理師学校に入りました。在学中のフランス留学を通じて欧州の食を極めたいと志し、28歳でイタリアへ旅立ちます。

 イタリア各地のレストランで修業を積む中で、最も魅せられたのがシチリアでした。「日本人がイタリア料理としてイメージするのはピザやパスタ、チーズというところでしょうが、シチリアは地中海の幸やジビエなど新鮮な食材を生かした料理が中心。オリーブやレモンもよく使います。実は僕、乳製品が苦手で。チーズや牛乳をあまり使わないシチリアの料理が体に合っていたんです」

 シチリア南東部のカルタジローネにある名店で技術を磨き、帰国。地元岐阜市の飲食店で腕を振るった後、2017年にシチリア料理店カルタジローネ(岐阜市神田町)をオープンしました。「経営の経験がない中、出店場所は土地勘のある岐阜を選びました。子どもの頃、映画を見たり、買い物に来たりした柳ケ瀬とは変わっていたけれど、岐阜駅前などを見れば人がまったくいなくなってしまったわけではない。店をやっていく中で、柳ケ瀬に昔のようなにぎわいが戻ればいいなという気持ちはありますね」

岐阜とシチリアをつなぐ思いでカンノーリや料理を生み出す水上公太さん

 シチリア料理は日本人になじみが薄いこともあり、開店当初は苦労もありましたが、少しずつ常連客が増えていきました。「地元出身だと分かると、すごく応援してくれるんです。コロナ禍の厳しい時も、常連さんがテイクアウトで使ってくれて救われました」

 水上さんの中で、地域への感謝とともに、岐阜県産の食材を大切にしたいという気持ちが強まりました。それは、地産地消を基本とするイタリアの食文化にも通じる思いでした。

 そして2022年、カンノーロ&カンノーリをオープン。「レストランのデザートとしても出していますが、より多くの人にシチリアで愛されるカンノーリを食べてほしくて専門店を出しました。ちなみに、あっさりしたリコッタチーズを使ったカンノーリは乳製品が得意ではない僕もおいしいと思えるお菓子です」と、その味に自信をのぞかせます。

 小麦のほか、焼き菓子に使用する卵や牛乳も岐阜県産を使用しています。また、リコッタチーズはイタリア、ピスタチオはシチリア産。食材の産地にこだわる理由は、「店で出す料理は味の良し悪しだけではなく、その一品にまつわるストーリーごと食べてもらうものだと思っているから」だと語ります。

 岐阜とシチリア、二つのふるさとへの愛情が込められたカンノーリを味わってみては。
(写真、文・西山歩)

カンノーロ&カンノーリ(Cannolo&Cannoli)
岐阜市金町2-14
電話 058(262)1786
営業時間 午前11時~午後6時
月、火曜定休