著書を手にする柳田邦男さん

 尼崎JR脱線事故を追い続けてきたノンフィクションの大家が「取材の集大成」と位置付ける著書を4月に出版した。柳田邦男さん(88)は遺族や負傷者の証言を丹念に集めると同時に、事故原因を詳細に分析。50年を超す作家人生で初めて「全体記録を自分が納得できる形でまとめられた」と語る。

 元NHK記者の柳田さんは、航空、鉄道事故の取材に長年携わり、尼崎事故では被害者とJR西日本幹部が共に背景を検証した「課題検討会」にオブザーバーとして参加。遺族や負傷者、その家族らと関係を築き、聞き取りを重ねてきた。

 著書では、事故後約18時間閉じ込められ両足が壊死したものの、リハビリを重ね歩けるようになった兵庫県伊丹市の山下亮輔さん(38)らの歩みをたどった。

 ナチス・ドイツの強制収容所での過酷な経験に基づくビクトール・フランクルの講演録の書名から「それでも人生にYesと言うために」と題した。フランクルが語った逆境で生き抜く力を、前向きに生きる被害者の姿に重ねたという。

 文芸春秋刊。574ページ、2860円。