松本智津夫被告(当時)の東京地裁判決を前に、地下鉄サリン事件で亡くなった夫の墓前で手を合わせる高橋シズヱさん=2004年2月、東京都足立区

 霞ケ関駅助役だった夫一正さん=当時(50)=を亡くした高橋シズヱさん(78)は、被害者の会で代表世話人として活動の先頭に立ってきた。「どれだけの人が悲しんだか。二度と起こってはいけない」と、事件の記憶継承を願う。

 結婚して3人の子に恵まれ、家族で花見にキャンプとにぎやかに暮らした。子どもたちの手が離れ、夫婦水入らずのリタイア生活を楽しみにしていた頃、事件が起きた。

 1995年3月20日の朝。一正さんは千代田線の列車にまかれた猛毒サリンを片付け、倒れた。高橋さんが病院に駆け付けた時、もう息はなかった。「人生を奪われる、断絶させられる悔しさ…」。当時を思い返す時、声を詰まらせる。

 うちひしがれる中、代表世話人になった。教団幹部の裁判に関する説明会に出た際、指名された人が次々と辞退、何の気なしに引き受けた。無我夢中で活動に打ち込み、裁判傍聴と並行し、政治家や官僚に会い、被害者遺族の生活が成り立つよう制度改正を求めた。