地下鉄駅のホームは、倒れてうめき声を上げる人であふれていた。オウム真理教による地下鉄サリン事件から20日で30年。警視庁のある捜査員は車両内に残されたサリンを証拠品として撮影。自身もサリンの影響で周囲が薄暗く見える症状が出た。「被害者の無念を晴らす」。その思いで教団の捜査に没頭した。
警視庁本部に勤務する20代の巡査長だった1995年3月20日、職場で始業準備をしていた午前8時過ぎに110番が相次いだ。「駅にガソリンがまかれた」。警察無線の情報は錯綜。上司に指示され、首に一眼レフカメラを掛けて霞ケ関駅に急行した。ホームに着くと多くの乗客がうずくまっていた。
車両内に放置された怪しいポリ袋。中には銀色に光る物体があり、液体がしみ出している。開いていた窓の隙間からカメラを構えた。重大事件の証拠になるかもしれず、失敗は許されない。
地上に戻ろうとすると、小学校低学年ぐらいの女の子2人を見つけ、両脇に抱え階段を上がって救急隊員に託した。日中なのに、外の景色は夕暮れのように薄暗かった。