今日から5日間、高山市では家具メーカーの新作展「飛騨の家具フェスティバル」が開催される。今年はメイン会場の中央に国史跡・高山陣屋の屋根材である榑(くれ)板を600枚もあしらったブースが出現し、板を作る「榑へぎ」体験のワークショップも行われる。なぜ現代家具の展示会場で伝統技術の展示や体験を? と不思議に思う人もいるだろう。
この企画は、私たち技の環が飛騨木工連合会に提案して実現したものだ。技の環とは、「伝統の技を支え、人をつなぎ、環をつくる」をテーマに今年から活動を始めた一般社団法人で、文化財や伝統工芸に携わる職人が抱える、後継者、原材料、道具などの課題解決の支援を行っている。飛騨でふと気づいたことがあった。この地域には「飛騨の匠(たくみ)」と呼ばれる、1300年もの歴史を誇る木造建築や木工の文化がある。一方、現代では日本を代表するテーブルや椅子などの家具産地としても有名だ。両者は連続した線でつながっているはずなのに、どこか別々の業界のように見えている。両者が組むことで、飛騨の魅力はさらに増すのではないだろうか。
そこで今年2月、飛騨の匠の象徴として榑へぎ技術に焦点を当て、この連載で紹介した地元出身の宮大工・川上舟晴さんの技を家具業界の経営者のみなさんに見てもらった。手道具だけで丸太から厚さ1センチ足らずの薄板を作ってゆくさまは大いに関心を集め、飛騨の家具フェスティバルの目玉イベントの一つに採用していただくことができた。
もう一つ、飛騨と美濃をつなぐことができないかという思いもあった。岐阜県には刃物の町・関がある。関鍛冶の技術で飛騨の匠の道具を作れたらと考え、関で修業した野鍛冶の佐野元治さんに榑へぎ体験用の道具づくりをお願いした。普段は包丁などの小物製品が中心の佐野さんにとって、巨大な丸太を割る大割鉈(おおわりなた)や、万力(まんりき)と呼ばれる飛騨独特の榑へぎ専用の道具などはずいぶん製作に苦労したようだが、無事完成にこぎつけた。
榑へぎのワークショップでは、佐野さんが作った道具を使い、本物の材料を割って参加者に榑板を作ってもらう。できあがった板には自分の名前を書いて高山陣屋に納め、将来の屋根工事の際に使ってもらう。参加者が文化財を守る営みに参加できるのだ。岐阜県が誇る伝統技術に多くの人が関心を持つ機会になればと願っている。
このイベントは「清流の国ぎふ」文化祭2024の一環で行われ、高山市で10月19、20日のほか、関市のせきてらすでも11月3日に開催される。お近くの方は、ぜひ本物の技を見にお越しいただきたい。
(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)
【技の環 アーカイブ】 技の環では、今回の取り組みをまとめた小冊子『飛騨の匠と関鍛冶の技を継ぐ』を刊行。会場で配布するほか、技の環のウェブサイトからダウンロードできる。また、川上舟晴さんと佐野元治さんへのインタビュー動画も公開している。(いずれも「技の環 アーカイブ」で検索)。