2月中旬、岐阜県庁17階の会議室に文化伝承課、地域産業課、林政課の職員と一般社団法人技の環の理事が集まった。県内の伝統技術の現場が抱えるさまざまな課題を共有するための連携会議だ。
まず技の環から、県の委託を受けて実施している相談事業の対応件数を発表。去年4月の窓口開設から今年2月中旬までに職人や組合などから94件の相談を受け付け、必要な情報を提供したり調査を行ったりしたことを報告した。その後、特に重要と思われるいくつかの課題について詳しく説明し、意見交換を行った。たとえば「関市の日本刀の刀匠たちに聞き取り調査をしたところ、全員が焼き入れに使う松炭の入手に困っていることが判明した。最大の生産地である岩手県からの出荷が大幅に減ったことが原因らしいが、これを県内で生産できないだろうか」と技の環から提案。それに対し林政課職員から現行の森林づくり基本計画の説明があり、「県では建築用材のほか、薪(まき)やきのこ栽培用原木の増産には力を入れているが、現状では木炭生産の振興はできていない」との回答があった。こうして現場と行政の情報を一つずつつなぎ、改善策を探っていく。
私は岐阜県立森林文化アカデミーの木工教員として伝統技術の継承に関わる中で、このような連携会議の必要性を痛感してきた。工芸品の課題は商工、文化財の課題は文化、原材料の課題は農林と行政の担当部署が分かれていて、職人から見るとどこへ相談したらよいか分からないし、担当者も数年で異動してしまう。現場をよく知る中間支援組織が行政の各部署とのハブになるべきだ。そう考えて立ち上げたのが技の環なのだ。
先述の松炭に関する意見交換の中で、県では5年ごとに森林づくり基本計画を定めて施策を行っていると聞き、次期計画には「伝統工芸や文化財を支える森づくり」というテーマを盛り込んではどうかと技の環から林政課へ提案した。飛騨春慶の木地にはヤマザクラの樹皮、塗りには漆、岐阜和傘にはエゴノキ、鵜籠(かご)にはハチク、というように工芸や文化財には特定の森林資源を用いるものがあり、持続的な供給には森づくりから行う必要があるためだ。この提案は林政課へ持ち帰り、検討してもらえることになった。
技の環はまだスタートして1年にすぎないが、このような活動を行う団体は全国的にも珍しい。伝統技術の継承に官民が連携する新たなモデルとして、やがて岐阜県から全国へと広がっていくよう、2年目もしっかり取り組んでいきたい。
(久津輪雅 技の環代表理事、森林文化アカデミー教授)
【技の環の窓口】 人(後継者育成)、原材料、道具など、伝統技術の継承に関する課題の相談を受け付けている。県からの受託事業のため、県内の伝統技術に関わる相談は無料。申し込みは技の環ウェブサイトの入力フォーム、メールcontact@ginowa.org、または電話080(4401)6872より。