「なんで泣いとんじゃ!優勝してから泣け」。タイブレークの末の劇的勝利に涙がこみあがる大垣日大ナインに高橋正明監督の厳しい一喝が鳴り響いた。主将木村海希は「例年以上の苦しい練習に励んできた成果を実証できたというみんなの気持ちが一つになった瞬間だった」と涙の意味を明かした。涙は単なるうれし涙ではない、退任した阪口慶三監督から高橋監督に受け継がれた伝統の強さの証明だった。

大垣日大×多治見工10回裏=最後の打者を三振に抑え、喜びを爆発させる権田(右)=大野レインボー

◇エース権田、回を重ね魂の力投

 2年連続夏の甲子園の鍵を握るエース権田結輝の2回戦の出来は確かに本来のものではなかった。相手は3年前にも第1シードの中京を初戦で倒した大物キラーの多治見工。打球の不運さもあったが制球に苦しみ、甘い球を痛打され、三回までに4失点。だが、「気持ちしかなかった」と四回から本来の投球を取り戻し、ストレートでの厳しい内角攻めを生かした伝家の宝刀・切れ味鋭いスライダーで多治見工打線から追加点を許さない。捕手西河遥人が「権田さんは立ち上がりがよくないことがあるが、いつも回を重ねるごとによくなる」と語るように、権田ならではの気迫のマウンドだった。

 それでも、打線は多治見工先発小松士心を打ちあぐね、フライアウトを重ねるなど多治見工の背中をとらえきれなかった。流れを変えたのはやはり権田。...