岐阜大学精神科医 塩入俊樹氏

 前回、「低身長」を例にして「発達障害」のさまざまな症状は、正常から異常まで連続的かつ相対的で、正常と異常の境界が不明瞭なこと。そして、そもそも子供の心の発達・成長には「個人差」があるので、「発達障害」の診断はとても難しいことをお話ししました。では実際に、どのような場合に「発達障害」と診断されるのでしょうか。

 生来の発達におけるアンバランスさが著しく強い場合、成長過程において長期間にわたり、何らかの支障(社会的不適応状態)を来すことがあります。つまり、学校や家庭など複数の場において、教育やしつけの上でさまざまな障害が継続的に生じ、周囲や本人が"非常に困っている状態"になります。

 例えば、授業中にじっとしていられない、常に体の一部を動かしている、忘れ物が多い、よく物をなくす、提出物の期限を守れない、学習の段取りが良くない、友達や先生とのコミュニケーションがうまくいかない(一方的にしゃべる、思い付きを言動に移す、集中して話が聞けない)、その場の空気を読めない(他人の気持ちが理解できない)、特定の勉強だけが苦手などです。

 この場合に「発達障害」である可能性が初めて出てきます。繰り返しますが"この子、ちょっと変わっている"といった程度では、そもそも正常の発達が凸凹ですから、「発達障害」ではなく、正常な成長の一過程のことが多いのです。

 重要なことは、この「発達障害」がしばしば、発達早期の小学校入学前に明らかとなるということです。最近、大人の「発達障害」という言葉をよく耳にしますが、このようなケースでは、さまざまな発達の問題が子供の頃からあることが前提です。精神科医の一人としては、「発達障害」が独り歩きをし、他人と少しでも違う行動を取れば、安易にこの名を付けようとする今日の傾向にとても憂慮しています。

 もう一つ、強調しておきたいことがあります。「発達障害」の症状があることで、かえって社会適応に有利な場合もあるということです。例えば、頑固で融通が利かないがゆえに、コツコツとある一つのものを成し遂げる。あるいは気が散りやすく落ち着きはないが、活動的で次々に斬新なアイデアを出し、新たなものに挑戦していくなどです。エジソンやアインシュタイン、モーツァルトなど実例は枚挙にいとまがありません。

 なおここでは「発達障害」を、米国精神医学会の公式診断基準であるDSM-5における「神経発達症群」に含まれる疾患群とします。その主なものには「知的能力障害(ID)」「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠如・多動性障害(ADHD)」「限局性学習障害(SLD)」「チック障害(TD)」などがあります。

 次回からは、これらの中で、最近特に注目されている「ASD」と「ADHD」「SLD」を中心にお話しします。

(岐阜大学医学部付属病院教授)