◆海外遠征費捻出できず「経験積みたい」
憧れの五輪の舞台に立ちたい-。その夢に向けて、フェンシング女子フルーレで高校随一の実力を誇る岐阜総合高2年の村瀬あかりさん(17)と、母で監督も務めるさゆりさん(52)が、クラウドファンディング(CF)で海外遠征の費用などを募っている。先月下旬に始め、早くも目標金額の280万円に達した。「五輪のピスト(競技コート)に立ちたい」「娘の夢をかなえさせてあげたい」。五輪に向けた親子二人三脚の挑戦が、全国で共感を呼んでいる。
CFの開始から一夜明けた先月24日、あかりさんは羽島市内の練習拠点で朝から汗を流していた。昨年は出場資格を得ながらも、資金面から海外遠征を断念したことを明かし、CFについては「自分には経験が全く足りていない。五輪に出るために国際大会で経験を積みたい」と切実な思いを語った。
実力は折り紙付きだ。中学3年の全日本中学生大会の個人を制し、頭角を現した。今夏の全国高校総体(インターハイ)は団体にエースとして臨み、岐阜総合高の2連覇に貢献。ジュニア(20歳未満)の国内ランキングは5位と高校生では最上位で、年齢制限のないシニアでも五輪選手らに交じり12位につける。
昨年末以降に出場した国際大会は、世代別で最高峰の世界ジュニア・カデ選手権を含む4大会。このほか4大会の出場権も獲得していたが、諦めざるを得なかった。東京五輪代表のめい・辻すみれ選手(24)=大垣共立銀行=らを育てたさゆりさんは「国によって体格も戦術も違う。今の段階から海外勢の戦い方を吸収することが欠かせない」と強調する。
ひとり親家庭で、活動費を切り詰めてきた。国内大会の多くは、さゆりさんがワゴン車を運転して回る。「1馬力なので頑張らないと」と口調は明るいが、遠征費を全て捻出することは難しい。消耗品も多く、あかりさんは1足数万円する競技専用シューズを一度も履いたことがなく、試合もテニスシューズで臨む。1試合に複数本が折れることもある剣は1本2万~3万円かかり、約4万円するジャケットも練習量が多いと1年未満で使用できなくなるなど、出費はかさむ。
CFで募った280万円は、昨年断念した4大会への遠征費に相当する額。さらに主要大会は本場欧州で開かれることが多く、世界各国・地域を転戦するワールドカップ(W杯)への本格参戦を目指すと、渡航費はさらにかかる。
国際大会が多い競技の特性上、遠征費はほぼ全額が選手や所属先企業などの負担。世界ランキング上位選手も例外ではなく、パリ五輪の女子フルーレ団体で日本の銅メダル獲得に貢献した宮脇花綸選手(27)=三菱電機=も自身の交流サイト(SNS)で「海外8大会はほぼ自腹」と明かし、話題となった。県出身でW杯を転戦する男子選手は「強くなればなるほど、お金がかかってしまう現実がある」と実情を語る。
「強化」と「お金」が切っても切り離せない関係にあるのはフェンシングに限らないが、夢は諦めたくない。パリ五輪でフェンシングの日本勢は、金二つを含む計5個のメダルを獲得。女子フルーレ団体は女子の全種目を通じて史上初のメダル獲得となった。あかりさんは「テレビで見ていて、あの舞台に立ちたいという思いが強くなった」と胸を熱くし、さゆりさんも「一人の親としても、夢をかなえさせてあげたい」と願う。
24日時点で既に個人、企業から132件約322万円の支援が寄せられたが、出場可能な全ての国際大会に余裕を持って遠征するには心もとない。あかりさんは「応援メッセージももらえた。その分練習して、世界で活躍して恩返ししたい。夢は五輪のフェンシング女子で、史上初の金メダル」と目を輝かせる。
寄付はCFサイト「OCOS(オコス)」で、10月31日まで募っている。
(浜田悠)
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