産婦人科医 今井篤志

 現在、がん治療の基本は「手術」「抗がん剤」「放射線」の3種類があり、これを三大療法と呼んでいます。日本では、これまで手術ががん治療の中心にありましたが、近年は抗がん剤や放射線治療が進歩し、がんの種類や進行度によっては手術と変わらない効果が認められています。

 最近、第4の治療法として、自分の体の働きでがんを治す「免疫チェックポイント阻害薬」という薬が登場し、テレビや新聞で盛んに取り上げられています。とても高額な薬ということでも話題になっています。

 私たちの体は、ウイルスや細菌などの異物が侵入すると、免疫機能が「これは自分のものではない」と判断し、攻撃・排除しようとします。この時主役として働くのが、T細胞という免疫細胞です。T細胞はがん細胞も異物と判断します。それでは、どのようにしてがん細胞は増え続けるのでしょうか。がん細胞は、PD-L1というT細胞を眠らせる物質を産生するのです。この睡眠薬は、T細胞の表面にあるPD-1という口に入り、T細胞を睡眠状態にします。このようにして、T細胞はがん細胞を攻撃できなくなり、がん細胞が増え続けます。

 免疫チェックポイント阻害薬は、PD-1に対する抗体です。ちょうどT細胞の口をふさぐマスクとして働きます。がん細胞で作られる睡眠薬がT細胞に入るのを阻止することによって、T細胞が目覚め、がん細胞を攻撃するようになります。

 副作用として免疫が過剰になっているので、正常な組織にも障害を与えてしまうことがあります。全身に起こり、肺、消化管、神経、ホルモン系、腎、筋肉、脳などに影響が出ることがあります。

 現在、日本で承認されている免疫チェックポイント阻害薬は、ニボルマブ(商品名オプジーボ)とペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)が主なものです。薬そのものの値段がとても高額で、一連の治療には年間2000万円近くかかります。しかし、保険の適応があり、また高額医療費制度によって自己負担には上限が設けられているため、最大でも月に25万円程度になります。

 この薬は、抗がん剤や放射線治療のようにがん細胞自体を攻撃するのではなく「自分ではないもの」を除くため、もともと体に備わった免疫機能を利用します。悪性黒色腫、非小細胞性肺がん、腎細胞がん、ホジキンリンパ腫、頭頸部(とうけいぶ)がん、胃がんに保険の適応がありますが、理論的にはほとんどのがんに効果が期待できます。他の臓器のがんにも保険の適応が見込まれていて、手術では切除しきれないほど広がってしまった病巣が消失した例が報告されています。日本で開発された薬でもあり、進歩著しい免疫チェックポイント阻害薬に注目してみてください。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)