東京地裁判決を受け、記者会見する江蔵智さん=21日午後、東京・霞が関の司法記者クラブ

 「神に願うような気持ちだった。一日でも早く会いたい」。都立墨田産院で取り違えられた江蔵智さん(67)は21日、東京地裁の法廷でじっと目を閉じながら判決を聞いた。実親の手がかりを得られる内容を求めた訴えを認める主文の朗読に続き、裁判長が都に調査を命じる理由を説明。代理人弁護士は江蔵さんの肩を優しくたたき、うなずき合った。

 1958年に出生し、取り違えられたとは思わず育った江蔵さん。46歳の時、家族で受けたDNA型鑑定で「あなたの体にはお父さん、お母さんの血は一滴も流れていない」と告げられた。

 裁判の傍ら、自ら墨田区役所で情報を集めた。同じ頃に生まれた約70〜80人を訪ね歩いた。さまざまな思いから「自分を失い、体調が悪くなった時期もあった」と語る。

 判決後の記者会見では「実親の顔が見たい、会いたいと思っていたのは変わらない」と振り返った。92歳になった「育ての母」は認知症が進むが「一目でいい、遠くからでもいいから顔を見たい」との実子への思いをまとめた陳述書を裁判所に提出したという。