産婦人科医 今井篤志

 今回は一度かかるとやっかいな、性器ヘルペスについて考えてみましょう。ある日突然、陰部にピリッと刺すような痛みを感じたり、水膨れのようなものができて気が付きます。5人に1人がかかるとも言われていますが、ヘルペスは一度かかってしまうと完治しません。薬で症状はいったん治まりますが、体力が衰えた時やストレスが続くと幾度となく症状が現れます。

 性器ヘルペスは、ヘルペスウイルスによって引き起こされます。ウイルスに感染すると2~10日後に、性器、お尻や肛門周囲などに水膨れや発疹が多数現れます。水膨れが破れると、強い痛みが出ます。38度以上の発熱、だるさ、頭痛、リンパ節の腫れなどを伴うこともあります。女性は男性に比べ痛みが強く、排尿や歩行が困難になることもあります。放置しても3週間ほどで自然に治ります。これは体がヘルペスウイルスに対する抗体を作り出すからです。しかし、抗ウイルス剤で治療すると症状も軽く済み、短期間でよくなります。

 ウイルスは自分で増殖ができません。人間の体の細胞の中でしか生き続けられないのです。一度感染すると、抗体や抗ウイルス剤でもウイルスを死滅させることはできません。体の中の神経節という部位で静かに生き続けます。疲れやストレスなどで体力が低下すると、ウイルスが元気になり症状が再発します。

 1年以内に8割以上の人が再発します。1カ月に何度も再発する人がいますが、年に一度ぐらいの人もいます。再発は初感染時に比べて症状が軽くなる傾向があり、多くは1週間以内に自然に治ります。そのため、抗ウイルス剤で治療せず、他人に感染させてしまうことが多々あります。

 どのようにしてヘルペスウイルスに感染するのでしょうか? 主な感染原因は、性行為です。相手の性器の粘膜にウイルスがいる場合は、粘膜同士の接触で簡単に感染してしまいます。感染予防にコンドームは有効ですが、太ももやお尻にウイルスがいる場合もあるため、コンドームで完全に防ぐことはできません。ヘルペスウイルスは非常に感染力が強いため、性行為をしなくても、患部に触れるだけで感染することがあります。

 性器ヘルペスを発症したり再発を繰り返していると、患部の皮膚がただれたり、傷が付いたりしてしまいます。すると、他のウイルスや細菌、クラミジア、梅毒などの病原体が侵入しやすくなってしまいます。さまざまな性感染症への感染リスクが高まり、症状が強く出てしまうこともあります。性行為の相手が複数いる場合は、特に注意が必要です。

 ヘルペスウイルスに感染しても、症状が現れない場合(不顕性感染)もありますが、一度体内に侵入した性器ヘルペスのウイルスを完全に死滅させることはできません。何度も再発を繰り返すやっかいな病気ですが、抗ウイルス剤で再発を和らげることはできます。専門家の知恵を借りましょう。

(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)