消化器内科医 加藤則廣

 子宮がんや前立腺がんなどで放射線治療を受けた患者さんの中には、放射線で直腸粘膜に障害を生じて、放射線性直腸炎を発症している方もいます。今回は放射線性直腸炎を取り上げます。

 放射線性直腸炎は、子宮がんや前立腺がんなどの放射線治療を受ける際に、放射線の通過経路に直腸があるために、直腸粘膜が放射線によって障害されて出現します。放射線性直腸炎には早期障害と晩期障害があります。

 早期障害は治療開始の1~2週間後から出現します。主な症状は排便の回数が多いことと下痢で、時に軽度の下血もみられますが、直腸の内視鏡所見はほとんど正常範囲内です。こうした症状は、一過性で治療終了後の2~3週間で消失するようです。早期障害は、放射線治療を受けた患者さんの約70%にみられます。

 一方、晩期障害は放射線治療を受けた患者さんの約20%にみられます。主たる症状は下血で、放射線治療終了の1年前後から2年後以降に発症します。また、治療を終えて数年から10年以上経過後に発症した報告もあります。内視鏡検査では、通常は直腸粘膜に観察されない、拡張した毛細血管や潰瘍性病変などの特徴的な所見がみられます。放射線性直腸炎は程度がひどくなると、内視鏡観察時に送気によって直腸が十分に膨らまない狭窄(きょうさく)所見がみられます。頻回に便意をもよおし、1日に何回も少量の排便を余儀なくされることもあります。

 出血に対する治療法は、ステロイドの坐(ざ)薬や粘膜保護剤を直腸内に注入する方法も試みられていますが、効果は限定的です。現在、最も有効で安全とされる治療法は、内視鏡的アルゴンプラズマ凝固療法(APC)です。APCは、内視鏡的にアルゴンガスを用い、高周波電源を利用して直腸粘膜に新生した毛細血管を焼灼(しょうしゃく)して止血する治療法です。APCによって潰瘍が形成され、潰瘍の治癒過程で健常な直腸粘膜が再生されることを期待しています。治癒には複数回のAPC治療が必要な方が多い状況です。また経過中には発がんの報告がみられるために、定期的な内視鏡検査が必要です。

 なお、最近は子宮がんや前立腺がんの放射線治療に、従来よりも高線量の放射線を照射でき、直腸を含んだ周辺の骨盤内臓器への照射は、できる限り少なくした強度変調放射線治療(IMRT)が行われています。IMRTは今後、放射線性直腸炎の発症を少なくすることが期待されています。

(岐阜市民病院消化器内科部長)