産婦人科医 今井篤志氏
「実際の年齢より若く見えますね」と言われれば、誰でもうれしいものです。脳年齢を判定してくれるゲームに挑戦し、一喜一憂した経験もあるかと思います。体力や体の機能が実際の年齢より若々しいのか、劣っているのかを表現する○○年齢という言葉が、最近よくマスコミに取り上げられています。今回は「卵巣年齢」を考えてみましょう。
男性の精子は年齢にあまり左右されることなく、常に精巣で作られます。ところが女性の卵は、まだ母親の子宮内に胎児としている時に数が最大となって、生まれた後は新しく数が増えることは決してありません。
つまり、年齢を重ねるごとに排卵を繰り返し、さらに老化によって、卵巣にある卵が減少していきます。まさに貯金を切り崩すのと同じです。
卵が減る速度は個人差が大きく、どのくらいの数の卵が残されているかを示すのが「卵巣年齢」です。残されている卵の数が多い場合には卵巣年齢が若い、卵の数が少ない場合には卵巣年齢が高いということになります。卵の数を直接調べることはできませんから、卵を取り巻いている卵胞で作られているホルモンを血液検査で測定すれば、卵の数が予測できます。代表的なホルモンが抗ミュラー管ホルモン、略してAMHです。このAMHの値が近年、卵巣予備能力の目安として注目されています。
AMHの量が多ければ、これから育ってくる卵胞がまだたくさんあるという指標になります。しかし、AMH値が高すぎる場合は、小さな卵胞がたくさんできてしまう多嚢胞性(たのうほうせい)卵巣(PCOS)の可能性があります。卵巣の中に、排卵に至らなかった卵胞が多数押し込められた状態です。
AMHの量が少ないと、残りの卵胞が少なく「卵巣年齢が高い」ということになりますが、AMH値が0でも卵胞が0ということではないので、妊娠するケースはあります。早発閉経といって、卵巣機能が実年齢以上に衰えていて、最悪の場合は20~30代でも閉経が起こってしまうケースでは、AMHは著しく低下します。
検査は採血で行います。他のホルモンとは異なり、月経周期や食事によって影響を受けないので、いつでも検査が可能です。費用は、保険が効きませんので、5000円~1万円程度ですが、これに診察代なども別途必要になります。
寿命がどんどん長くなっても、女性の初経・閉経年齢は2000年前と変わりません(2012年5月28日付本欄参照)。しかし、外観は若々しくても、20~30代で閉経する早発閉経が最近急増しています。卵巣年齢を知ることは、妊娠プランだけでなく更年期・老年期の自分の人生設計に役立ちます。
(松波総合病院腫瘍内分泌センター長、羽島郡笠松町田代)