笠松競馬場の正門。所得隠し・馬券購入事件で自粛中のレースは5月12日にも再開される見通しになった

 「5月中には何としても再開したい」と主催者。笠松競馬の騎手、調教師ら5人が書類送検された馬券購入事件。岐阜県地方競馬組合が設置した第三者委員会の調査結果が近くまとめられ、4月中には該当者の行政処分を発表。早ければ5月12日にもレースが再開される見通しになった。3月23日の県地方競馬組合議会定例会で明らかになった。堤防沿いの桜は満開となり、長いトンネルの先にようやく光が見えてきた。

 競馬組合管理者である古田聖人笠松町長は「笠松競馬関係者が所得税の申告漏れを指摘された問題を受け、レース開催を自粛。第三者委員会を設置し、現在も調査・検討を続けています。(今回の問題で)管理者として深くおわびします」と述べ、2020年度の経営状況については黒字を確保できる見通しを示した。

 第三者委では騎手、調教師、厩務員の面談調査が進められており、3月末までには報告書を取りまとめ、公表したい意向。4月には報告書の内容に応じて処分委員会が開かれ、該当する対象者の聴聞・弁明などを経て、行政処分が発表される。既に競馬法違反(馬券購入)の疑いで書類送検された元調教師1人、元騎手3人も処分対象になる。処分は、最も重い「競馬関与停止」をはじめ、騎乗・調教停止、戒告・賞典停止などがある。

 第三者委の調査が長引いたことについて競馬組合では「真相究明はきっちりと、厳重にやらなければならない」として、慎重な対応になった。処分該当者の弁明、確定など一定の手続きで時間を要するため、4月中の再開も間に合わなかった。

 不正を一掃し、クリーンな競馬場に生まれ変わるため、「処分を決定するとともに再発防止策をきっちりとまとめ、速やかに競馬再開につなげていきたい」とオグリキャップ記念シリーズ・後半となる5月12~14日再開には「最大限努力」。遅くても5月26~28日にはレースが再開されることになった。4月中には発表される。

 ■常設の監視委員会で不正チェックへ

 今回の問題を受けて、地元県議からレース開催に向けた提案もあった。「まず国に笠松競馬の開催を認めてもらい、(インターネット販売とともに)他の競馬場などでも笠松の馬券を売ってくれないと、売り上げが見込めない。ファンは『公正レース』だと認知しないと、馬券を買ってくれない。しっかりとした対策が必要」。さらに「違法行為をきちんと監視するため、第三者委のような『監視委員会』を常設してはどうか。抜き打ち検査を行うなどして不正を防止し、信頼を回復していくべき」と再発防止策の構築を求めた。

 これを受けて競馬組合では「外部有識者によるチェック機関を設置することを検討している」と監視委員会設置に前向きな意向を示した。

レース再開に向けて、正門に新設された場内マップ。内馬場にあるパドックの位置が分かりやすくなり、清流ビジョンには水野翔騎手の姿も

 ■馬券販売は好調、7.3%増で8年連続黒字
 
 本年度、笠松競馬場で開催予定だった95日間のうち23日間が中止になったが、馬券の総売り上げはアップ。実質単年度収支で8年連続の黒字を確保した。

 1月の第16回競馬開催時までの馬券発売額は290億6500万円で、前年同期比では52.1%増。1日当たりでは4億円を超え、3月末までの年間を通しても前年度比で7.3%の伸びとなった。
 
 好調な売り上げはインターネット投票の発売額が前年比24.5%増となったことが要因。コロナ禍で無観客開催が半年以上続いて、ネット投票は全体の93.5%を占めた。一方、JRAの馬券が場内で購入できる「J―PLACE」では、発売額が5億5700万円減少した。2014年10月の開設当時、古田肇知事は「(存廃問題での)絶体絶命のピンチから10年。関係者の血のにじむような改革努力に、改めて感謝を申し上げる」と語っていたが、今回の問題でも競馬場関係者の改革努力が問われている。

 ■東門は解体撤去、厩舎移転で建設用地を取得へ

 新年度事業では、東門を解体撤去する。競馬場全体をコンパクトに管理するとともに、東スタンド改修工事に向けて重機が入りやすくするためだが、第7駐車場(無料)や有料駐車場から近く、利用客が多かっただけに残念だ。今後唯一の入場門になる正門には場内マップが新設され、内馬場にあるパドックの位置なども分かりやすくなった。

 老朽化した円城寺厩舎は、放馬事故を回避するためにも競馬場に近い薬師寺厩舎への移転、集約が進められる。厩務員住宅解体工事が行われる一方、薬師寺厩舎エリアで不足する土地を「厩舎建設拡張用地」として取得する。来年から設計、再来年には一部着工を予定しており、7~8年がかりで整備していく。

 本年度までの基金は約38億円に増えた。環境整備基金(約37億円)と財政調整基金などで、ここ8年間の黒字化などで蓄積できた。今後、環境整備基金を取り崩し、東スタンドの改修、耐震補強、厩舎整備などに充てていく。今回の事件では、馬主や厩舎関係者への補償費は多額になるが、一般会計でやりくりする。また、調整ルーム携帯電話通信抑制業務にも予算(519万円)を盛り込んだ。

■「いい馬は出ていく」笠松所属馬激減(2カ月で約100頭)
 
 4カ月間もレースがなく、笠松競馬の所属馬や厩舎関係者の現状はどうなのか。馬主には在厩馬への出走手当相当の補償はあるが、調教師や騎手への手当はまだ支給されていない(保留状態)。それぞれ個人事業主でもあり、特に騎手は大幅な収入減で、日増しに厳しい生活を強いられている。  
 
 【馬主、競走馬】
 笠松在厩馬は約530頭いたが、2カ月ほどで約100頭も減ってしまった。30頭近くいたが、ゼロになった厩舎もある。馬主によって考え方は違うが、やはり愛馬がレースで走る姿を見たいもの。馬への補償があっても、1着ゴールを夢見ている人は多いだろう。重賞勝ちがある有力馬では、ニュータウンガール(牝4歳)が愛知へ、ニューホープ(牡5歳)は高知へと移籍。期間限定でレース再開後の笠松に戻ってきてくれればいいが。

 厩舎関係者によると「レースで勝負になりそうないい馬は出ていく。笠松に残っているのは休養・故障馬か、能力的に走れない着外続きの馬か、デビュー前の2歳馬だね」と。他地区からも少しは笠松に転入しているが、「使えない馬でも連れてくれば、出走手当が支給されるので、それを目当てに入ってくるのでは」という。

レース再開を信じて、調教に励む若手騎手たち

 ■騎手・調教師の手当は支給ストップ、騎手はバイトも
 
 騎手や調教師は、第三者委員会の調査対象でもあり、報告書で結果が判明するまで、手当はストップされている。

【調教師、騎手】
 第三者委の調査内容が分からないので、不安な毎日が続く。厩舎の在籍馬が他場へ移籍すれば、馬主からの預託料はなくなり、調教師らの収入は激減する。家族らも「今は耐えるしかないです。もう少しの辛抱ですね」と早期再開を願っている。
 
 開催自粛中も競走馬の馬体維持は怠れず、調教はほぼ平常通り。ただ在籍馬が減っており、休みは月4日だったのが、2日増えて月6日になった。騎手たちは賞金・手当をもらえず、生活は苦しさを増すばかり。1頭300円ほど(うち保険料100円)の調教料が唯一の収入源だが騎乗馬は減少。「食っていけない」とばかりにアルバイトに励んで、しのいでいる騎手もたくさんいるという。レースもなく、朝の攻め馬(2時から9時ごろまで)が終われば、その後は暇な時間ができる。短期のバイトで生活費を稼ぐしかなく、居酒屋などでも働いているという。
 
 【厩務員】
 4月いっぱいの自粛が発表され、各厩舎とも馬は一気に減った。厩務員は1人で5、6頭世話していたのが、2、3頭に減った人も多いという。「馬がいなくなったら、どうしようもない。本当にレースを再開できるのか不安だし、ここまで自粛が長引くと『つぶれるんじゃないか』と思っている人も半分ぐらいいる」といい、大切に育ててきた愛馬は手元を離れ、つらい思いが身に染みる。

 厩務員は世話をする頭数に応じての給料で、1頭減ったら5、6万円失うことになる。「今はレースがなくて攻め馬ばかりで、かえってきつい。みんなイライラしているし、レースがないと馬もおかしくなる。早く再開してほしい」といら立ちを募らせている。

日本の競馬場で唯一の内馬場パドック。騎手たちはマイクロバスで入場し、整列後に騎乗する

■馬主や厩舎関係者への手当を補償

 組合側としても「競走馬が笠松からいなくなっては、再開してもレースが編成できなくなって困る」と馬主や厩舎関係者への補償に応じている。

 【開催自粛中の補償内容】
 補償対象は、予定されていた開催シリーズごとにレース1走分。笠松在厩馬1頭当たりにつき、馬主、調教師、騎手、厩務員それぞれの手当相当額が支給されている。

 馬主への出走手当は昨年1月に改定され、4000円アップ。C級馬で6万9000円、B級馬は7万5000円、A級馬は8万1000円になった。

 今回の補償では、これに厩舎手当4000円、着外相当分の手当2000円を一律加算。C級で計7万5000円。B級は8万1000円、A級は8万7000円が支給されている。3月は2開催でC級なら7万5000円×2=15万円。4月は3開催分として支給される。

 騎手、調教師、厩務員への手当は、1回出走相当額としてそれぞれ6500円(今年1月に改定され、1000円アップ)を支給。騎手、調教師は保留中だが、第三者委の調査結果で問題がなければ支給される。
 
 ■桜の季節が過ぎ去ったゴールデンウイーク明けに
 
 競馬場の東門がなくなると聞いて、掲示されている所属騎手一覧表の写真を改めて撮影。昨年8月に3人減り、現在は15人になっているが、5月の再開時にはどうなっているのか。警備員によると「売り上げは伸びているんだし、町長も早く再開すればいいと話していた」というが、場内に活気が戻るのは桜の季節が過ぎ去ったゴールデンウイーク明けになってしまった。