
2013年2月、京都競馬場で行われたアンカツさん(右)の引退セレモニー。ジョッキー仲間と一緒に別れを惜しんだ武豊騎手は通算4000勝達成が目前だ
日本の競馬界ではこのところ、通算勝利数の記録更新などで盛り上がっている。南関東では的場文男騎手(大井)が地方通算「7152勝」の新記録。藤田菜七子騎手はJRA女性騎手最多の「35勝」の新記録を達成。武豊騎手はJRAでは前人未到の4000勝まで「あと4勝」に迫っている。クリンチャーでのフランス凱旋門賞挑戦はあるが、カウントダウンは進み、今月中にも大台に届きそうだ。
地方競馬の通算勝利数では、やはり南関東の騎手が強い。平日は大井、船橋、川崎、浦和の4場のどこかでレースが開催され、昨年リーディングの矢野貴之騎手(大井)は1484レースに乗り、238勝を挙げた。内田博幸騎手は大井時代(2006年)に1897戦で463勝をマーク。笠松リーディングの佐藤友則騎手は昨年、820戦で178勝だった。

地方競馬3000勝ジョッキーの通算勝率で、全国トップのアンカツさん。笠松時代にはライデンリーダーに騎乗し、桜花賞に挑戦した(1995年)
南関東や園田に比べ、東海地区だけでは騎乗回数が少なく、勝利数では負けるが、10回乗って何回1着ゴールしたかという「勝率」で比較してみたらどうなのか。プロ野球の「個人通算打率」のようなもので、4000打数以上で青木宣親選手(ヤクルト)が13日現在「.329」で1位だ。地方競馬には「最優秀勝率騎手賞」、中央競馬にも「最高勝率騎手」という年間タイトルがある。地方競馬でこれまでに3000勝以上を挙げているジョッキーは30人。歴代の名手たちの通算勝率を比べてみた。
その結果、地方競馬での通算勝率トップは、やはりアンカツさん(安藤勝己元騎手=笠松、JRA)だった。14259レースに騎乗し3353勝で、勝率は23.5%。笠松時代に3299勝、JRA移籍後の地方競馬勝利数が54勝。2位は菅原勲元騎手(岩手)で勝率22.6 %、3位は小牧太騎手(兵庫、JRA)で勝率22.4%と続いている。
【地方競馬3000勝騎手の通算勝率ベスト30】
※は引退 (2018年9月13日現在)
勝率(%)連対率(%) 勝利数
①安藤勝己 (笠松)※ 23.5 40.5 3353
②菅原 勲(岩手)※ 22.6 39.7 4127
③小牧 太(兵庫) 22.4 38.6 3434
④岩田康誠(兵庫) 22.2 38.5 3120
⑤高砂哲二(中津)※ 21.7 - 3351
⑥赤岡修次(高知) 21.2 35.8 3487
⑦山口 勲(佐賀) 21.09 36.4 4299
⑧鮫島克也(佐賀) 21.08 37.1 4788
⑨小林俊彦(岩手)※ 20.2 36.4 3788
⑩向山 牧(笠松) 19.3 35.1 3404
⑪田中道夫(兵庫)※ 18.7 34.5 3161
⑫佐々木竹見(川崎)※18.3 32.7 7151
⑬岡崎 準(福山)※ 18.2 32.7 3071
⑭川原正一(兵庫) 17.89 31.5 5347
⑮岡部 誠(愛知) 17.86 33.2 3505
⑯有馬澄男(兵庫)※ 17.79 32.9 4185
⑰内田博幸(大井) 17.77 31.1 3234
⑱的場文男(大井) 17.6 31.8 7164
⑲石崎隆之(岩手) 17.4 31.7 6269
⑳村上 忍(岩手) 17.1 32.0 3102
勝率(%)連対率(%) 勝利数
㉑金山明彦(ばんえい)※ 16.74 30.5 3299
㉒田中 学(兵庫) 16.73 31.9 3694
㉓木村 健(兵庫)※ 16.4 30.8 3560
㉔安部幸夫(愛知)※ 16.1 29.2 3055
㉕高橋三郎(大井)※ 15.4 - 3975
㉖内田利雄 (浦和) 14.5 27.8 3525
㉗藤本 匠(ばんえい) 13.4 25.9 4149
㉘藤野俊一(ばんえい) 13.1 24.7 3085
㉙大河原和雄(ばんえい)※12.2 22.7 3373
㉚桑島孝春 (船橋)※ 11.7 23.9 4713
(所属は現在または最終。-はデータなし)
※安藤、小牧、岩田、内田騎手はJRA移籍後の地方競馬勝利数も含む。

笠松競馬場でのオグリキャップ引退式で、愛馬とのラストランを終えたアンカツさん(1991年)
1位のアンカツさんは1976年10月にデビュー。3年目から18年連続で笠松リーディングを獲得し、高い勝率を長年キープしてきた。2着までの連対率でも、3000勝ジョッキーでただ1人「4割超え」のすごさ。現役引退時に「笠松時代に最も印象深かった馬」として挙げたフェートノーザンをはじめ、オグリキャップ、ライデンリーダー、レジェンドハンターらに騎乗。地方と中央の間の高い壁を突き破って、人馬一体でのトップランナーとして駆け抜けてきた。
笠松時代には、全日本サラブレッドカップや帝王賞を制覇したフェートノーザン、ダービーグランプリで豪脚Vを決めたトミシノポルンガらで地方重賞を計198勝。JRA移籍後もアドマイヤドンでJBCクラシックを連覇。GⅠレース6勝を含め、ダートグレード競走で計36勝を飾った。勝率トップのアンカツさんを「地方競馬最強ジョッキー」と呼んでいいだろう。

笠松グランプリをラブバレットで3連覇。調教師としても存在感を示している菅原勲元騎手(右)
2位の菅原勲元騎手(現調教師)は、岩手のメイセイオペラでフェブラリーSを優勝。地方所属馬で中央GⅠを制覇した唯一の騎手として輝きを放つ。08年に笠松で行われたスーパージョッキーズトライアルでは2レースを連勝し、大井での2戦を含めて総合優勝を飾った。本戦となったワールドスーパージョッキーズでも勝利を挙げた(総合8位)。調教師として挑んだ笠松グランプリはラブバレットで3連覇。騎手、調教師として参戦した笠松のレースで不敗神話は生き続けている。今年11月の笠松グランプリにも4連覇を目指して、ぜひ参戦してほしい。

3400勝を突破し、通算勝率も全国10位。笠松で活躍を続けている向山牧騎手
3位の小牧騎手と4位の岩田騎手は、園田のリーディングを長年獲得し、アンカツさんの背中を追うようにしてJRA入りし活躍中。笠松勢の向山牧騎手は10位にランクイン。新潟・三条時代から高い勝率で重賞を勝ちまくった。02年に笠松へ移籍し、一昨年には連対率で全国3位の41.5%と好成績。アンカツさんがJRA移籍前に飾った地方通算3299勝を突破し、笠松現役騎手の最多勝記録の更新を続けている。3400勝達成セレモニーでは「4000勝までは頑張るつもり。けがをしないように長く乗っていきたいです」と健在ぶりをアピールした。現在53歳。的場騎手らのように、還暦ジョッキーを目指して丈夫で長持ちしてほしい。

トウケイタイガーに騎乗し、笠松グランプリに挑んだ川原正一騎手
来年還暦を迎えるのは川原正一騎手。笠松、兵庫所属でそれぞれ2500勝以上の快挙達成も近い。笠松時代から一番好きだったジョッキーで、逃げ馬に騎乗したら天下一品。昨秋の笠松グランプリで来場してくれ、トウケイタイガーで4着。名古屋のかきつばた記念では、JRA勢を圧倒してダートグレード(GⅢ)を逃げ切りで制覇した。笠松所属だった1997年には、ワールドスーパージョッキーズ本戦に地方代表として参戦し、総合Vを飾っている。笠松でまた騎乗してくれれば、オールドファンを喜ばせることだろう。