笠松グランプリでラブバレットの4連覇を阻止。1着でゴールする兵庫のエイシンバランサー(下原理騎手)

 「地方競馬のレジェンド」菅原勲調教師の笠松での不敗神話がついに崩れた。第14回笠松グランプリ(地方全国交流、1400メートル、SPⅠ)は、兵庫の芦毛馬エイシンバランサー(牡6歳、新子雅司厩舎)が、下原理騎手の好騎乗で中団から差し切って初制覇。このレース3連覇中だった岩手・ラブバレット(牡7歳、菅原厩舎)は最後の直線で伸びを欠いて4着に終わり、V4はならなかった。2着に高知のサクラレグナム、3着には名古屋のメモリートニックが入った。笠松勢はドリームアローの5着が最高だった。 

ラスト100メートルを過ぎて、先頭に立ったエイシンバランサーを追う各馬

 笠松グランプリは、2004年までは「全日本サラブレッドカップ」の名称で行われていた。第1回の1988年には、笠松のフェートノーザンが、大井のイナリワン(翌年のJRA年度代表馬)に完勝するなど、数々の名勝負が繰り広げられてきた。今年も各地のリーディング経験者6人が参戦。豪華メンバーが腕を競った。

 レースはメモリートニック(友森翔太郎騎手)が逃げて、北海道のタイセイバンデット(吉原寛人騎手)が2番手、ラブバレットは5番手から追走。後方からの競馬となったエイシンバランサーは、4コーナーで内から大外を回すと、鋭い差し脚でグイッと一伸び。いったん先頭に立ったサクラレグナムに2馬身差をつけてゴールした。

エイシンバランサーで笠松グランプリを制覇し、喜びの関係者

 勝ったエイシンバランサーは、JRAの元オープン馬で兵庫に移籍。7月の笠松サマーカップに続いて、佐賀サマーチャンピオン(GⅢ)を制覇。笠松グランプリでは2番人気となり、打倒ラブバレットに狙いを定めていた。

 優勝騎手インタビューで、下原騎手は「メンバーはそろっていましたが、勝てて良かったです。思ったより後ろ気味でしたが、この馬の力を信じて乗りました。3、4コーナーでうまく内を抜けられて、直線では『いける』と思った。いい脚を使う馬で今後も楽しみです。また頑張ります」と喜びを語り、集まったファンに花束をプレゼントした。

優勝の歓喜に浸る下原騎手(右)と新子雅司調教師

 笠松では、これで重賞2連勝。エイシンバランサーを管理する新子調教師は「笠松のサマーカップで強い勝ち方をしていて、きょうもいい勝負になると...。調教も順調で、自信がありました。ラブバレットをマークして、後ろにつければ何とかなると思った。ジョッキーを信頼していたし、直線ではじけてくれた。笠松ではいい感じで走ってくれて、相性がいいですね」と語り、次走は兵庫ゴールドトロフィー(12月27日、GⅢ)を予定している。

花束を手にする下原騎手。馬主さんには飛騨牛のプレゼントも

 下原騎手の手腕がさえたレースといえよう。3、4コーナーでまくり気味に上がっていって、内から外へ切れ込んだ一瞬の判断が光った。「(最初から)外を回っていたら、きつかったが、最後にすごい脚を使ってくれた」と満足そう。馬主さんに贈られた飛騨牛にも「おいしそう」と興味を示してくれて、笠松のファンにもおなじみの顔になってきた。

1番人気のラブバレットは4連覇を逃し、4着に終わった

 V4を期待された1番人気ラブバレットは、残念な結果に終わった。山本聡哉騎手は「(3番枠から)うまく立ち回れなかった。内側の砂が少し深くて、ペースに乗れませんでした。3、4コーナーでは、内がごちゃつくと思って外に出したんですが」と悔しそうだった。

 菅原調教師は、騎手時代の1999年に岩手のメイセイオペラで、JRAのGⅠ・フェブラリーSを制覇。2008年に笠松で行われたスーパージョッキーズトライアルでは2レースを連勝。ラブバレットで3連覇を飾り、騎手、調教師として参戦した笠松のレースでは5戦5勝だった。「笠松に来れば負け知らずで、勝ち続けたかったが...。JBCスプリントからレース間隔が短く、きつかった。(岩手―京都―岩手―笠松と続いた)長距離輸送もこたえて、疲れが残っていたようです。きょうはレース展開が厳しく、道中はもまれる感じで、しまいも伸び切れなかった」と振り返った。

 2着サクラレグナムの赤岡修次騎手は「ペースが速くて、最後は消耗戦になった。手応えほど伸びなかった」と残念がった。昨秋の笠松グランプリ2着、今春の高知・黒船賞(GⅢ)Vの兵庫・エイシンヴァラーには、園田で厩務員をしていたこともある笠松の山下雅之騎手が騎乗したが、8着どまり。笠松移籍後には9連勝を飾ったストーミーワンダー(笹野博司厩舎)も、佐藤友則騎手で挑んだが9着に終わった。

名鉄ブラスバンド部による生ファンファーレの演奏

 この日は、降雨の心配もあったが、秋晴れの好天に恵まれた。名鉄ブラスバンド部による生ファンファーレの演奏がウイナーズサークルであり、高らかな響きで笠松グランプリ開催を盛り上げた。また、地方競馬の収益金は、全国の畜産振興に活用されていることから、馬事畜産振興協議会長賞の副賞として、岐阜県特産の「飛騨牛」が馬主さんに贈呈された。今シリーズ最終日の23日には畜産フェアも開催され、年末に向けてファンの来場も増えそうだ。

 ところで、ラブバレットが所属する岩手競馬は、7~10月のレース出走馬4頭から、相次いで禁止薬物(筋肉増強剤)が検出された問題で、このところ大揺れだった。11月のレースを6日間休止し、薬物検査の徹底や厩舎の監視カメラの増設などの再発防止策を万全にすることで、24日からの再開が決まった。

「岩手競馬再開!」をアピールする山本聡哉騎手ら

 また「単年度赤字に陥れば競馬事業を廃止する可能性がある」との主催者サイドの姿勢も改めて明らかにされた。同じような状況にある笠松競馬も含めて、地方競馬を取り巻く環境はまだまだ厳しく、馬券のネット販売の恩恵で「V字回復」などと喜んでばかりはいられない。気の緩みこそが、思わぬ「逆風」を招くことになりかねない。禁止薬物問題は、よそ事ではなく、笠松競馬場でも2年前、2着になった競走馬1頭から、岩手競馬と同じ禁止薬物が検出されたことがあった。10年前には、馬インフルエンザで笠松所属馬37頭が陽性反応を示し、レースが1日休止となったこともあった。

 師走を前に何とかレース再開が決まった岩手競馬。ラブバレットはついに笠松グランプリで敗れたが、レース終了後には、「岩手競馬再開! 水沢でお待ちしています」と関係者がアピールした。ラブバレットは、昨年2着だった兵庫ゴールドトロフィーに参戦予定で、エイシンバランサーとの再戦でリベンジを果たしたい。まだまだ東北の大将格として「岩手競馬の再生」をけん引してもらいたい。